デフレ脱却を掲げる安倍政権が積極的な経済政策を打ち出す中で、今年の春闘が始まった。物価上昇だけでなく賃金や雇用の改善も伴う望ましい景気回復に向け、労使が議論を深めてほしい。
先進国で十年以上も平均賃金(名目)が下落基調にあるのは日本だけである。この間、企業は利益が出ても賃金を抑えてきた。それが消費市場を一段と縮め、企業の値下げ競争を激化させ、デフレと低成長が常態化している。
連合は今春闘で「個人消費を拡大させるには賃上げが必要だ。それがデフレ脱却につながる」として、定期昇給とは別に、給与総額の1%引き上げを要求している。
対する経団連は「雇用確保が最優先でベースアップの余地はない」と反論し、定昇すら「凍結や延期もあり得る」と強硬で、労使の主張に隔たりは大きい。
ここ数年は「雇用か、賃金か」の二者択一を迫られ、労働側は賃下げを受け入れてきた。しかし、今春闘はそんな従来型の労使交渉から抜け出すべき時である。安倍晋三首相は緊急経済対策を発表した先月の会見で「企業収益を向上させ、雇用や賃金の拡大につなげたい。経営者にも協力いただきたい」と経営側に要請した。賃上げや雇用を増やした企業には法人税を軽減する制度もつくった。
政府・日銀は2%のインフレ目標を決めており、物価上昇に賃上げや雇用の改善が続かないと国民生活は苦しくなるだけだ。そこで今春闘で議論すべきは、単年の賃上げ交渉に加え、企業の成長や業績拡大に向けた労使協調である。
グローバル競争の激化を直視し、勝てる分野に事業を選択集中する。これまでは「社内失業」などを抱え、非効率な事業も温存させてきたが、教育訓練などで労働の有効活用や流動化に力を入れる。業績が好転すれば賃金を引き上げるルールも明確にする。
四月に始まる希望者全員の六十五歳までの再雇用についても、労使は経営改善につながるよう知恵を絞ってほしい。
旧態依然の春闘はほころびが目立つ。例えば、円高やアジア諸国の追い上げで国際競争力が落ちた金属・機械産業が相場形成をリードする方式はもはや限界であろう。
正社員中心にも無理がある。働き手の三割以上となった非正規の待遇改善にもっと力を入れるべきだ。消費拡大など強い経済の実現には、非正規も含めた労働者全体の底上げが必要だからである。