毎日社説:堺市長再選 橋下構想に厳しい審判

毎日新聞 2013年09月30日

 「大阪都構想」への参加の是非が争点となった堺市長選で、参加に反対する現職の竹山修身(おさみ)氏が、都構想推進を訴える大阪維新の会公認の新人を破り再選を決めた。

 橋下徹大阪市長が唱える都構想にとって大きな打撃だ。このまま堺市抜きで進めるのであれば、橋下氏は住民が納得できる「大阪都」の具体像を明確に示さなければならない。

 大阪都構想は元々、大阪市と堺市の2政令指定市を廃止して東京都のように複数の特別区に再編する構想だ。二重行政を解消し、広域政策を府に一元化して大阪を国際競争力のある都市に再生する狙いがある。昨年8月には都構想を実現できる法律が成立した。

 ところが堺市の竹山市長は「歴史ある市の解体につながる」と協議への参加を拒否し、大阪府と大阪市だけで調整が進められてきた。維新の会は堺市長選に対立候補を擁立し、堺市も参加する道を開こうとした。

 竹山氏勝利は都構想への参加は望まないという堺市民の意思表示だ。中世から国際交易都市として栄えた歴史を持つ市が特別区に分割されることへの抵抗感や、維新の会側が都構想の利点を説得力ある形で説明できなかったことが主な要因である。

 橋下氏は記者会見で、引き続き大阪府・市で協議を進めると強調したが、選挙結果は大阪市民にも影響を与える。大阪都のメリットが見えてこなければ「大阪市が解体されるだけでは」という疑念が広がるだろう。

 都構想実現に向けたハードルは高い。目標とする15年春に大阪都を実現するためには、14年秋までに大阪府・市の議会での議決を経て、大阪市民を対象にした住民投票で過半数の賛成が必要だ。だが、維新の会は大阪市議会で過半数を持たないだけに、このままでは住民投票にまでこぎ着けられるかも疑問だ。

 維新の会は党の浮沈を握る重要選挙と位置づけ、全国から国会議員らを動員して総力戦を展開した。そのうえでの敗北は、府内で無敵だった「橋下人気」の失速を意味する。

 橋下氏が共同代表を務める国政での日本維新の会の迷走とも無縁であるまい。従軍慰安婦をめぐる発言など、橋下氏の言動はこのところ分権改革以外の分野で物議を醸し、参院選で伸び悩んだ。合流前の旧太陽の党、旧維新の会両勢力の不協和音も目立つ。与党寄りの対応も目につき、国民からは方向性がよく分からない政党だと見られ始めているのではないか。

 こんな状況では分権改革の旗印も色あせるばかりだ。橋下氏は共同代表辞任を否定した。だが、原点であるはずの都構想が揺らぎ始めた今、大阪府民が期待する大阪再生という宿題と真剣に向き合う必要がある。

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