毎日新聞 2014年02月06日
NHK経営委員2人の節度を欠いた言動や行き過ぎた主張が、問題になっている。公共放送の最高意思決定機関のメンバーとして、不適格だといわざるをえない。安倍晋三首相の任命責任も問われる。
経営委員会は12人で構成し、任期は3年。執行部の上に位置し、事業計画や毎年度の予算を議決し、会長の任免権を持っている。衆参両院の同意を得て、首相が任命する。
昨年11〜12月に4人の委員が新しく就任した。
そのうち哲学者の長谷川三千子氏は、朝日新聞社で1993年に拳銃自殺した右翼団体の元幹部について、昨年10月にこの自殺を礼賛する追悼文を発表していた。メディアに対して暴力で圧力をかけた刑事事件の当事者を称賛していると読める文章だ。憲法が規定する象徴天皇制を否定するような記述も見られる。
また、長谷川氏は今年1月に新聞で、少子化対策として女性が家庭で育児に専念し、男性が外で働くのが合理的という内容のコラムを発表して、議論を呼んだ。
一方、やはり新しく経営委員になった作家の百田尚樹氏は都知事選で特定候補を応援する街頭演説で、南京大虐殺や真珠湾攻撃、東京裁判などについて持論を展開した。そして、「中国・韓国の顔色を見ながら政治をする人は不必要。彼らは売国奴」と言い、自分が応援する以外の候補を「人間のクズみたいなやつ」と呼んだ。
厳密にいえば、放送法にはNHK経営委員に政治活動を制限する記述はない。しかし、「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」から選ぶと定められている。NHKは不偏不党、公平中立を求められるからこそ、経営委員には節度が必要だ。
偏狭なナショナリズムの主張や極端な私見を聞くと、公共放送の経営にかかわるのにふさわしい人たちとは思えない。
長谷川氏や百田氏が経営委員に選ばれた時、安倍首相との距離の近さが指摘され、NHKの報道姿勢などが偏ったものにならないかと懸念された。籾井(もみい)勝人会長の就任会見での従軍慰安婦などをめぐる発言に続き、ますます憂慮すべき事態に陥っている。これでは、NHKの信頼は失われるばかりだ。
現在のような経営委員を選ぶ仕組みには、時の政権の意向が如実に反映してしまう。そのために繰り返し、政治とNHKの距離が問題になってきた。経営委員の選定にあたっては第三者機関を置くなど、権力の影響を受けにくい新しいシステムが必要ではないか。これから大いに検討すべき課題だ。