沖縄県の竹富町教育委員会が採択地区協議会の決定とは異なる中学公民教科書を採択、使用していることについて、文部科学省は町教委に直接是正要求をした。
地方自治法による手続きだが、国が市区町村に直接に是正要求をするのは初めてだ。しかも、本来外からの圧力を警戒すべき教育行政が対象で、現場を萎縮させる懸念もある。
義務教育の公立学校教科書は広域の地区協議会で共同採択する方式がとられ、そこで選んだ教科書をその域内の学校が共通して使う。現行の教科書無償措置法による。
2011年、竹富町のほか石垣市、与那国町で構成する八重山採択地区協議会は中学公民を育鵬(いくほう)社版に決めたが、竹富町教委は「沖縄の基地問題の記述が少ない」などとし、独自に東京書籍版の使用を決めた。地方教育行政法が教委に採択権限を認めているのが根拠だ。町教委は無償給付は受けられないが、寄付金で教科書を購入し配布した。
政府は再発防止策として、この2法の規定の“不整合”をなくし地区協の決定に一本化すべく今国会で法改正を求める。だが、これは本質的な解決とはなるまい。
問題が浮上した際、私たちは、むしろ広域の共同採択方式を見直す機会にすべきではないかと提起した。
現行方式は、採択前に自治体ごとの教科書調査の負担を軽減し、域内の学校が学習指導の共同研究がしやすく、供給も効率的で安上がりになる−−などを理由とした。
しかし、学校教育にこれまでにない多様化や独自の工夫が求められ、情報交換、収集の手段も格段に進んだ今、広く同一の教科書が使われることが妥当だろうか。
さらに深刻なのは、今回国が直接乗り出したことだ。
文科省は、昨年来沖縄県教委に竹富町教委へ是正要求するよう求めてきたが応じられず、新年度の使用に間に合わないため、直接要求できる緊急の事態と判断したという。
果たして、やむを得ざる権限発動の事態といえるか疑問だ。竹富町教委は応じる義務は負うが、今後係争状況が続く可能性がある。
安倍政権は政治主導の教育改革に力点を置き、首長の権限を強めた教育委員会制度改革の法案が今国会で論議される見通しだ。ただ、それも、具体的に何を改善するための改革というより、まず政治主導の教育政策のかたちを求めてはいないだろうか。
今回の措置は「前例」として後に影響を残すだろう。地方の教育行政が独自の判断を回避するような風潮を生むなら、自治理念を根幹とした教育行政を大きく損なうことになりかねない。