日経「大機小機」 若者のために雇用をつくれ

若者の雇用不足が深刻化している。働く場が安定しなければ家庭を持つのも難しいから、人材育成も非婚化も少子化問題も解決しない。解決には若者の雇用安定化が不可欠だ。財政赤字で次世代負担論が盛んだが、こちらの方がはるかに深刻だ。

政府も若者の雇用対策を重要課題に挙げている。そこで具体策として聞こえてくるのは、ミスマッチの解消や職業訓練の充実、学校でのキャリア教育や就職指導の徹底などである。

しかし、そもそも仕事の絶対量が足りない以上、ミスマッチの解消による効果は限られる。キャリア教育の充実や仕事の能力を強化しても、ライバルを蹴落とすだけで、雇用不足は改善しない。雇用の総数がこのままで「本当に若者の雇用を増やせたら、今度は中高年が職を失う。

若者と中高年の職場の取り合いは他でも起きている。政府は、若者の年金負担を軽減するため受給年齢を引き上げ、その間の高齢者の生活維持のために、定年延長や再雇用制度を進めている。だがこれでは、高齢者が若者の雇用を奪うから、若者の負担軽減どころかむしろ拡大になる。

結局、小手先の政策では解決にならず、雇用総数を増やすしかない。しかし政府は率先して公務員の新規採用を年々減らし、2013年度は自公政権で最後の採用となった09年度(8511人)比で56%も削減する方針。減らすなら、まずそれ以上の民間雇用若者のために雇用をつくるべきではないか。

雇用が少なければ、労使間の交渉力は企業側が持つ。そのため、賃金引き下げはもちろん、就業環境もどんどん悪化する。運良く就職できた若者も残業を強制され、いつ失職するかわからない厳しい職場環境にさらされる。

若者の転職が問題視されているが、職場環境が今のままなら、いくら職探しを手伝っても、転職希望の若者は減らない。企業が若者を温かく受け入れなければ、若者に企業への忠誠心や一生懸命さを要求するのは酷だ。落ち着いて仕事に打ち込めず、転職機会ばかりを探すことになる。

転職の増加を若者のわがままと嘆くのも、雇用流動化進展の証しと喜ぶのも見当外れだ。雇用流動化は、働きたい者の人数分の職があり、能力を磨けば高度な職場に移れるという環境でこそ意味がある。将来を担う若者を心配するなら、雇用創出に予算を使うしか方法はない。(魔笛)

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