宮崎日々新聞 2014年5月16日
集団的自衛権協議へ
安倍晋三首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が、憲法解釈の変更により集団的自衛権の部分的な行使容認などを求める報告書を首相に提出した。自国が攻撃された場合に限り武力行使できる「専守防衛」の国是を変容させる大転換となる。日本が他国の戦争に巻き込まれる恐れが強まるだけに、慎重の上にも慎重な議論の積み重ねが必要だ。
「専守防衛」から転換
首相は報告書を受けた記者会見で「与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、改正すべき法制の基本的方向を、国民の命と暮らしを守るため、閣議決定していく」と行使容認へ意欲を示した。
これまで政府は国際法上、集団的自衛権を有しているとする一方、その行使は「日本を防衛する必要最小限度の範囲を超え、許されない」との解釈を堅持してきた。
今回の報告書はこれを変更し、2008年に提言した公海での米艦船防護や米国に向かう弾道ミサイル迎撃などに加え、▽日本近隣で有事が起きた際の強制的な船舶検査▽シーレーン(海上交通路)での機雷掃海-なども可能とするよう促した。
また、日本と密接な関係にある外国が武力攻撃され「その事態がわが国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき」に集団的自衛権の行使を認めるよう求めた。
自衛隊法など現行法は「専守防衛」を前提としており、行使を容認した後、それに沿った関連法改正が必要となる。首相は早ければ秋の臨時国会にも関連改正法案を提出、成立させる段取りを描く。法改正の中身が、報告書の事例に限定される保証はない。自衛隊活動の柔軟性を確保するとして、事例は際限なく広がりかねない。
与党内でも慎重姿勢
日本と国民生活の根幹である憲法を時の政権の意のままに解釈変更で変えれば、憲法は形骸化してしまう。何としても集団的自衛権を行使できるようにしたいのであれば、国民投票で憲法改正の是非を堂々と問うのが筋ではないか。
公明党は現在の憲法解釈を尊重すべきだと主張する。自民党でも野田聖子総務会長が「人を殺す、殺されるかもしれないというリアリズムを語るべきだ」と慎重な姿勢を強めており、与党内は一枚岩ではない。共同通信社が4月に実施した全国電話世論調査でも、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈に52・1%が反対し、賛成は38・0%だった。
第2次大戦後、日本は戦死者を出していない。だが集団的自衛権の行使を認めれば、自衛隊員が戦死する可能性は高まる。その覚悟が首相や行使容認論者にあるのか。首相は「国民の理解を得る努力を継続していく」と力説した。これまでの憲法解釈と現行法の枠内で何ができて何ができないのか。まず、それをきちんと整理し、国民に示すことが政治の責務だ。