東京社説 賃金引き上げ 民の力を束ねるときだ

東京新聞 2013年9月21日

 政府と経済界、労働界による初の政労使協議が行われた。勤労者所得を増やしてデフレから抜け出す−が目的だ。経済界はやみくもな人件費削減を自戒し「民」の力を束ねて日本再生を担うべきだ。

 安倍政権は二〇一四年度に東日本大震災の復興特別法人税を一年前倒しで廃止し、法人税の実効税率も引き下げの検討を進める方針を打ち出した。しかし、企業優遇への慎重論は自民、公明の与党内でも根強い。

 中でも、高村正彦自民党副総裁は「法人税の実効税率引き下げは企業の内部留保を増やすだけ」と牽制(けんせい)している。復興税廃止は企業に九千億円の減税をもたらす一方で、同じ復興財源である所得税増税は二十五年間続く。いくら法人税減税を賃上げにつなげると説明しても、理解は得にくい。高村氏は国民の反発を警戒したようだ。

 確かに企業はリーマン・ショックのような有事に怯(おび)え、内部留保を二百兆円以上ため込んできた。従業員の人件費を削るなどして積み上げた資金であり、それを支えているのが低賃金で雇う派遣労働など、複数の働き方を組み合わせた「雇用のポートフォリオ」だ。 非正規雇用は一二年に初めて二千万人を突破し、雇用者全体の38・2%に達した。年収二百万円以下の勤労者も一千万人に上る。

 安倍晋三首相は二十日の政労使協議で「デフレ脱却への動きを賃金や雇用の拡大を伴う好循環につなげられるかが勝負どころ」と、来春闘を視野に米倉弘昌経団連会長らに賃上げを求めたが、企業側は「政府の介入は排すべき」と総じて冷ややかだ。賃上げを政府に委ねては労使間の秩序が崩れると、距離を置いているのだろう。

 しかし、労働力を必要に応じて調達する商品のように扱う現実を見過ごすわけにはいかない。経団連は「従業員が働きやすい環境を確保し、豊かさを実現する」と宣言している。いわば企業の社会的責任であり、それを貫く覚悟こそが求められるというべきだ。

 経営者は、折々に「経済の主役は民間」と胸を張る。ならば、安倍政権の異次元の金融緩和や財政政策に続いて、日本の成長を促す国内設備投資などの「第三の矢」は民間の出番のはずだ。行きすぎた円高は修正され、輸出関連企業などは収益を大きく改善しつつある。

 支払い能力のある企業は誠実に賃上げに応じ、勤労者を安心感で包む。経済の主役を任ずるなら、政府に頼らず隗(かい)より始めよ、だ。

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