読売新聞 2014年05月18日
働き過ぎのために、命を落とす人が後を絶たない。労働環境を改善し、過労死を防ぐ対策を充実させる必要がある。
自民党が、過労死防止法案をまとめた。今国会に提出する。過労死対策を国の責務と位置づけ、実態調査の実施を求めた点がポイントである。具体的な防止策については、政府が大綱を作成して規定する。
民主党など野党6党も、既に同趣旨の法案を提出している。与野党は調整を急ぎ、成立を図ってもらいたい。
仕事による過労で脳や心臓の病気になり、2012年度に労災認定された人は338人に上った。2年連続での増加だった。
うつ病など精神疾患による労災認定も過去最多の475人に達し、前年より5割近く増えた。うち93人が自殺を図っていた。
パソコンやスマートフォンの普及に伴い、時間や場所にかかわりなく仕事ができるようになった。それが労災認定の増加を招いているとの指摘がある。四六時中、仕事に追われれば、ストレスや睡眠不足をもたらしやすいからだ。
労災と認定される過労死は“氷山の一角”に過ぎないだろう。実効性のある対策を講じる前提として、まずは健康被害の実態を把握しようという自民党の法案の狙いは理解できる。
ただ、法案が労働時間の短縮のあり方に触れていないのは物足りない。過労死や過労自殺を防ぐには、長時間労働の是正を進めることが何より重要である。
他の先進国と比較し、日本人の労働時間は長い。週に60時間以上働いている人は、480万人に上る。過労死の予備軍と言えよう。統計に表れない、賃金不払いのサービス残業も蔓延まんえんしている。
大綱に時短の具体策をしっかりと盛り込むことが大切だ。
労働基準法の規定で、労使が協定を結べば、事実上、際限なく残業時間を延ばせる仕組みについても、再考が求められる。
法案は、企業に対し、政府の施策に協力する責務を負わせた。
政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議は、労働時間ではなく、成果で働きを評価する新たな労働管理制度を提言した。
「長時間労働を助長する」との批判もあるが、一方で、遅くまで漫然と職場に残る非効率な残業を解消する効果も期待できよう。
早朝勤務の導入で、夜間の残業をなくし、時短につなげた企業もある。企業は生産性の向上と時短の両立に工夫を凝らすべきだ。