秋田魁新報 2014年5月30日
120人以上が参加する超党派の国会議員連盟が提出した「過労死等防止対策推進法案」が衆院を通過、今国会で成立する見通しとなった。過労死防止を「国の責務」とした初めての法案で、さまざまな対策を求めている。過労死を根絶するための契機とすべきであり、二度と悲劇を繰り返してはならない。
法制定の動きの陰には遺族らの粘り強い運動があった。その訴えは国連にも届いた。昨年5月、社会権規約委員会は日本の過労死多発に懸念を表明するとともに、政府に対し、防止のための立法措置を取るよう勧告したのだ。
わが国の長時間労働や過酷な労働実態が国際社会でも問題視されたことを忘れるわけにはいかない。
法案では、過労死を「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と定義した。国が実施する対策としては過労死の実態の調査研究を掲げ、国民への啓発、相談体制の整備、民間団体の活動支援も挙げた。
調査研究は労災を認定されたケースだけでなく、業務に関係して亡くなった事案などを幅広く対象にするという。過労死の疑いがあっても泣き寝入りするケースがあるとみられるだけに、広範囲に調査するのは当然だろう。
2012年度に業務に起因するとして労災認定された死者は全国で123人。このほかうつ病などの精神疾患による過労自殺も過去最高の93人に上った。労災申請にまで至らなかったケースも多いと想定される。
法案では、国に防止対策を盛り込んだ大綱作成を義務付けた。具体的な対応は法成立後になるが、いかに過労死の背景を探り、実効性のある大綱にするかが鍵となろう。
厚生労働省内には過労死等防止対策推進協議会を設置する。遺族や労使代表を含めることにしており、大綱作成に当たっては、協議会の意見を重視し、実態に見合った対策にすることが欠かせない。
過労死との関係でいえば、過酷な労働を強いて若者を使い捨てにする「ブラック企業」の存在も気掛かりだ。最近は若い世代の過労自殺が目立つというだけに、企業の状況をしっかり把握し、撲滅に向けて行動していくことが肝要になる。
一方で、安倍晋三首相が労働時間規制が適用されず残業代が支払われない「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入に積極的な姿勢をみせていることも注視しなければならない。首相は「成果で評価される自由な働き方」と説明している。しかし、成果が出るまで限度を超えた労働が強いられることがないか、警戒する必要があろう。
過労死を根絶するには、横行する長時間労働をなくさなければならない。「命より大切な仕事があるのか」という訴えを忘れたくない。