南日本新聞社説: [過労死防止法] 実効性をどう高めるか

南日本新聞 2014年 5月31日

 過労死防止法案が衆院を通過して、今国会で成立する見通しとなった。過労死のない社会への一歩にしたい。

 「karoshi(過労死)」が権威ある英語辞書に登場したのは10年以上前だ。昨年5月には国連社会権規約委員会が、防止対策を取るよう日本政府に勧告した。

 日本人の働き過ぎによる死は国際的にも問題視されてきた。遅きに失したとはいえ、超党派の議員連盟が「過労死等防止対策推進法案」を議員立法で提出、過労死防止を「国の責務」と明記したことは評価できる。

 問題は実効性をどう高めるか、だろう。

 法案は対策を進めるための「大綱」作成を国に義務付けている。国が実施する対策として、実態の調査研究、国民啓発、相談体制の整備、民間団体の活動支援を列挙した。

 その結果を国会へ毎年提出する義務も設けたが、規制や罰則は定めていない。これまでの国の対策は後手に回ってきただけに、国会議員一人一人が目を光らせておく必要がある。

 法案は「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や精神障害を原因とする死亡や自殺」と過労死を定義した。

 厚生労働省が2012年度、脳・心臓疾患による死亡で労災認定したのは123人、未遂を含めた過労自殺は93人だった。氷山の一角だろうし、泣き寝入りしている関係者は少なくあるまい。

 厚労省は過労死の認定基準を、時間外労働(残業)月100時間超などとしている。昨年秋にブラック企業対策として実施した監督では、約5000事業所のうち730で月100時間を超えて働く人がいた。

 鹿児島労働局管内でも、66事業所のうち4事業所が100時間以上に達していた。

 過労死の温床である長時間労働の実態調査は、国が実施すべき対策の柱でもある。積極的な解明と公表を求めたい。

 法案は「勤労感謝の日」を含む毎年11月を啓発月間とし、地方自治体や事業主にも協力を求めるとした。犠牲者は決して出さない、と誓う機会にすべきだ。

 気になるのは、「日本の成長のため、柔軟な働き方ができるように労働法制を変えていく」という安倍晋三首相の姿勢である。過労死防止に逆行する労働規制緩和であってはならない。

 人口維持には長時間労働の解消が課題、と政府の専門調査会も指摘したばかりだ。死ぬまで働かせる社会は過去のものとしたい。

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