琉球新聞 2014年5月30日
安倍政権は、働いた時間の長さと関係なく成果に対して賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を導入する意向だ。
この制度は第1次安倍政権で導入を図り「残業代ゼロ法」「過労死促進法」と批判され撤回に追い込まれた経緯がある。
なぜ断念した制度を再び導入しようとするのか。理解に苦しむ。今国会で成立の公算が大きい過労死防止法の理念にも逆行する。労働者保護の視点を欠いた安易な規制緩和は慎むべきだ。
労働基準法は労働時間の上限を原則として1日8時間、週40時間に規制している。労使が合意すれば時間外労働が認められるが、企業は残業代や深夜・休日の割増賃金を支払わなければならない。しかし、ホワイトカラー・エグゼンプションは1日の労働時間に規制はなく、企業が時間外労働をさせる場合の労使協定も必要ない。
安倍晋三首相は政府の産業競争力会議でこう発言した。「成果で評価される自由な働き方にふさわしい。労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」。果たしてその選択肢は適切か。
若者を長時間労働で使い捨てる「ブラック企業」が社会問題化し、労働者を取り巻く環境は悪化している。沖縄労働局による県内企業の抜き打ち調査で27社中21社で法令違反が確認され、改善を指導されている。
こうした中で規制を緩和すれば、成果を挙げるまで際限なく働かざるを得なくなり、心身の健康を損ない過労死に追い込まれる労働者が増える可能性がある。規制の枠外にある働き方では、労働基準監督署によるチェックも行き届かず、長時間労働への歯止めにならない。
成果に対して賃金を払い残業代をゼロにするという考えは、労基法の趣旨に反する。従業員を1日8時間を超えて働かせた企業には残業代を支払う義務がある。労働問題に詳しい水口洋介弁護士は、企業側の残業代コストをできる限り少なくするのが政府の狙いと見る。規制緩和で株価浮揚につなげようという狙いも透けて見える。
今必要な労働政策は、労働時間の規制緩和ではない。長時間労働を確実に短縮させるための法整備ではないか。経済界の意向を優先し、労働者を犠牲にして進められようとしている安倍政権の労働政策は、改革とは程遠い。