東京新聞社説: 最低賃金改定 貧困から抜け出す額に

東京新聞 2014年7月31日

 二〇一四年度の最低賃金の引き上げ幅は、昨年度に続き高水準になった。だが、働いても貧困から抜け出せない人たちの生活向上にはほど遠い。非正規雇用が増える今、さらなる底上げが必要だ。

 最低賃金は企業が払う最低限の賃金水準で、下回る賃金は違法となる。非正規で働く人たちの賃金額の目安にもなっている。

 労使が入る国の中央最低賃金審議会が毎年、改定幅の目安を示す。これを受け地方の審議会が地域ごとの金額を決める。改定は非正規労働者の“春闘”といえる。

 本年度の目安は全国平均で時給七百八十円、昨年度より十六円増えた。二桁増は三年連続で昨年度よりさらに一円上乗せした。

 改定の目安となる賃金、物価、企業利益はいずれも上昇した。正社員の春闘では大手企業の賃上げ率は十五年ぶりに2%を超えた。引き上げは当然だ。今改定も約2%のアップになる。

 だが、消費者物価指数は前年比3%超の上昇が続く。消費税も増税された。最低でも物価上昇分の上乗せはすべきだった。

 働いて手にする賃金が、生活保護の給付を下回る逆転現象も課題だったが、逆転している五都道県はやっと解消する。

 ただ、政府は四年前に閣議決定した成長戦略で「早期に全国最低八百円、二〇年までに全国平均千円」の実現を掲げている。達成にはほど遠い改定に終わった。

 最低賃金で働く人は、以前は学生のアルバイトや主婦のパートなど生活費の一部を得ることが目的だった。今は労働者の約四割が非正規雇用だ。この賃金で家計を支える人も少なくない。

 労働者から「時給千円以上」を求めた訴訟も起こされている。関係者からは「文化的な生活を営むには千五百円は必要」との声も聞く。政府はまず目標の「全国最低八百円」を早く実現すべきだ。

 アベノミクスは中小企業にまで波及しておらず賃上げは経営を圧迫するとの懸念は分かるが、働く人の生活があってはじめて消費が拡大する。企業側の努力こそ全体の底上げにつながる。

 安倍政権は「女性の活躍」推進を掲げる。企業などで働く女性の55%は非正規なのに、雇用対策にその視点が欠けていないか。正社員への転換促進や、厚生年金と健康保険加入拡大など雇用に安心を与える対策に本腰を入れないと肝心の労働力が先細るだけだ。

 貧困の放置は許されない。

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