毎日新聞 2014年08月04日
これでは働く人の健康や生活が守れるわけがない。平均残業時間が労使協定(月45時間)を大きく上回る月109時間など、牛丼チェーン「すき家」の第三者委員会は過酷な勤務実態を明らかにした。「恒常的に月500時間以上の勤務」「体重が20キロ減った」など従業員の悲痛な証言もある。「すき家」だけの問題ではない。コスト削減や値下げ競争の陰で従業員を使いつぶす企業は後を絶たない。長時間労働の解消は社会全体で取り組むべき課題だ。
過労死や労災は年々深刻さを増しており、2013年度の労災補償状況によると、精神疾患の労災請求は1409人と過去最多だった。20代と30代で全体の半数を占めている。通常国会で成立した過労死防止法は、過労死の調査研究を行い総合的な対策を取ることが定められているが、長時間労働はもともと法律で厳しく規制され、違反すると懲役6月以下の刑罰が科されることになっている。残業に寛容な社会通念や働く現場の慣行が法規制とはかけ離れた実態を許してきたと言える。
労働基準法は1週間の勤務時間を40時間と定めているが、労使協定を結べば延長が認められ、特別条項付き協定でさらに延ばすことができる。また、長時間勤務に関する労使の争いの多くは、時間外労働に対する割増賃金や未払い賃金と同額の付加金の支払いについてだ。労働基準監督署の指導や裁判所の判決によって労働者側が救済されるケースも多いが、刑事訴追に至ることは少ない。
こうした違法行為を監視し調査する役割を担っているのが労働基準監督官だ。全国の労働局や労働基準監督署に配置されている。特別司法警察職員として悪質な違法行為の疑いがある企業に対して通告なしに立ち入り調査し、容疑者を逮捕する権限もある。
ところが、先進諸国と比べると監督官の数は少なく、都市部では1人の監督官が3000以上の事業所を担当しているのが実態だ。民主党政権下での公務員削減によって毎年の採用人員が半減し、さらに監視機能が弱まっていると指摘される。昨年から増員に転じているが、横行するブラック企業への対応に十分手が回っているとは言えない。
監督官庁によるチェックだけでなく、企業の自主的な取り組みも必要だ。人手不足の時代に劣悪な労働条件を強いるような企業に就職しようという人は集まらないだろう。
これまでは賃上げや解雇規制が労働問題の中心的課題とされることが多かったが、深刻な過労死や労災をこれ以上看過するわけにはいかない。社会全体が働く人の生命や健康にもっと本気で取り組むべきだ。