【新潟日報社説】過労死防止法案 根絶のため具体策を急げ

新潟日報 2014/05/27

 長時間労働や職場のストレスなどによる過労死や過労自殺をなくすための法律が、今国会中に成立する公算が大きくなった。残された家族の悲しみを繰り返さないためにも、実効性ある具体策につなげねばならない。

 過労死等防止対策推進法案は衆院厚生労働委員会で、全会一致で可決された。週内にも衆院を通過する見通しだ。

 最大のポイントは、過労死防止を「国の責務」と明記したことだ。国はこれ以上、厳しい現状から目をそらすことは許されない。

 法案は、国に対して過労死の実態を調査研究し、産業医の研修などを含め当事者や家族らが相談できる態勢を整えるよう求めた。

 国には対策大綱を作成し、調査結果や対策の実施状況を毎年報告するようにも義務付けた。

 このほか、過労死問題に取り組む民間の活動に支援するよう求め、国民の関心と理解を深めるよう促した。市町村や事業主にも協力を求めるとしている。

 これだけ社会問題化していながら、この程度の対策すら今まで打たれていなかったことに暗然とする。法案の内容は最低ラインのこととして、国や関係先に取り組んでもらいたい。

 過労死の実態には未解明な部分も多い。まず実態をしっかりと把握することが重要だ。その上で有効な政策を打ち出し、強力に進めねばならない。

 防止法の施行を待たずに、現行法の中でも、違法な過重労働があれば厳しく対処していくことはもちろんである。

 厚生労働省が脳・心臓疾患による死亡で労災認定したのは、2012年度で123人、過労自殺(未遂を含む)は93人だった。

 氷山の一角であろう。死亡や障害などで労災認定を求める訴訟は後を絶たない。

 過労死は働き盛りの中高年に限らない。若者に過酷な働き方を強いて使い捨てにする「ブラック企業」の問題も深刻だ。

 新潟労働局が昨年、問題がありそうな事業所を監査した際は、過労死の認定基準となる時間外労働月100時間を超えた人が、3事業所で確認された。

 長時間労働を避けるための就業形態の見直しなど企業側の自主的な取り組みの強化や、意に沿わない働き方に声を上げることのできる仕組みづくりが大事だろう。

 一方で政府は、一定条件の下で労働時間の規制を外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を目指している。

 労働界は長時間労働やただ働きを助長する制度だとして反発し、同じ政府内の厚労省も慎重に検討していく姿勢だ。

 こうした労働条件の規制緩和が、過労死を根絶する方向性の邪魔をするような事態は、絶対に避けなければならない。

 超党派の議員連盟が法案を提出し、各会派が成立へと胸を合わせたのは、長時間労働への懸念が広く浸透しているからである。

 犠牲者の無言の訴えに耳をすまし、「人が資本」を前提にした施策を求めたい。

この記事を書いた人