秋田魁新聞社説:外国人実習生 労働環境の改善を急げ

秋田魁新聞 2014/08/08

 外国人技能実習制度を利用して日本で働く人たちを保護するため、政府は来年度にも新たな機関を創設する。低賃金や長時間残業、人権侵害など実習生の劣悪な労働環境は放置しておける状態ではなく、企業への監督、指導を強めることは不可欠だ。政府は早急に新機関の中身を具体化させ、実習生の労働環境を改善しなければならない。

 外国人技能実習制度は開発途上国などの労働者を一定期間受け入れ、母国の発展に必要な技能を身に付けてもらう制度で、1993年に創設された。2013年の実習生は建設、製造、農業など68職種で16万人。雇い主は最低賃金や労働時間などの労働法制を守る義務がある。

 しかし、「パスポートを取り上げて命令に従わせた」「時給300円で働かせた」といった事例が次々に報告されるのが現実である。企業の中には人手不足を補うための安価な労働力と考えているところもあるのではないか。

 米国務省は14年の人身売買に関する報告書で、「(実習生の)多くが劣悪な環境で技術習得にもならない仕事をさせられている」として日本政府に取り締まり強化を求めている。重く受け止めるべきだ。

 新たに創設する機関には企業への立ち入り調査権限を持たせる。不正行為があれば是正指導や勧告ができるほか、悪質な企業名を公表することも検討する。こうした措置は必要だろう。実習生からの通報窓口も設けるとしており、いかに的確に対応するかが問われる。

 中小企業は、事業協同組合などの日本側受け入れ団体から実習生の紹介を受けている。まずは受け入れ団体のチェック機能を強めることだ。そのために新機関は団体に外部役員の配置や外部監査の実施を義務付けることも検討する。

 現行でも受け入れ団体は実習先の企業を3カ月に1度、監査することになっているが、実際にはしっかりと行われていない。総務省の調査では不正の大半が見逃されていたことが判明しており、監査の立て直しが急務だ。

 政府が実習生保護を強める背景には、経済界の要請に沿って受け入れを拡大したいとの思惑がある。労働環境への批判が強いままでは拡大は困難と考えたのだろう。安倍政権は実習制度の対象職種を増やし、介護などを追加することを検討。実習期間も現行の最大3年から5年に延長する方向だ。

 しかし、人手不足などの理由で受け入れを拡大していいのか。地域社会への影響も考える必要がある。介護は人の命に関わる仕事で、言葉や文化の問題も関係してくる。慎重に議論する必要があろう。

 安易に受け入れを拡大するのではなく、まずは労働環境の改善を急ぐことが先決だ。それが国際貢献という実習制度の趣旨にも沿う対応である。

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