【神奈川新聞社説】 過労死 官民で防止への自覚を

神奈川新聞 2014.05.06

 「命より大事な仕事ってなんですか」−。過労死や過労自殺で家族を失った人々からの訴えを、あらためて社会全体で受け止めなければならない。

 超党派の国会議員でつくる議員連盟が制定を目指している過労死の対策推進法案が、今国会に提出される見通しとなっている。大型連休明けにも各党の了承手続きが進むとみられる。

 法案では、過労死を防ぐ重要性について「国民の自覚を促し、国民の関心と理解を深める」と強調し、国や自治体、事業者などの連携が欠かせないとしている。過労死防止策の「大綱」を定めると規定し、理解を広めるために、11月を「防止啓発月間」とすることも盛り込んだ。

 過労死・過労自殺の実態をめぐっては、表面化するのは一部だけとも指摘されてきた。

 厚生労働省の集計によると、過労による脳・心臓疾患の労災認定は2012年度で338件、県内では23件だった。だが内閣府が集計する自殺統計によると、原因を「勤務の問題」とされた自殺は年間で2300件を超えている。すべてが過労に起因するとはいえないだろうが、労災でとらえきれていない悲劇は多いのではないか。

 推進法案では、実態が十分に把握されていない現状を踏まえ、調査研究が必要だとも指摘した。政府に対し、過労死の調査概要や防止策を毎年国会に報告するよう義務づけてもいる。

 ただ法案の軸足は、こうした調査や理念の明示に置かれており、過重労働を強いる企業への規制が強まったわけではない。法が成立した場合にも、理念に実効性を持たせるための運用は不可欠だ。

 過労防止は企業の重要な責務だ。若者を使い捨てにする「ブラック企業」には厳しく対処しなければならない。また外食産業などが若年層の人手不足に直面しているように、社会構造変化を受けた雇用のあり方に踏み込んだ対策が求められよう。

 一方、政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議が4月に開いた合同会議では、時間ではなく成果で評価する制度の検討が話題に上った。

 経済再生の陰で、結果として過重労働を見過ごすことは許されない。「KAROSHI」が英語の辞書に載るほどの不名誉な状況を打開してこそ、本来の成長といえる。

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