河北新報社説: 企業と労働/「すき家」問題を他山の石に

河北新報 2014年8月12日

 夏季休暇の時節だが、「忙しくて夏休みどころではない」と汗を流す人も多いだろう。

 飲食業や建設業、サービス業を中心に人手不足が進み、悲鳴を上げる現場は少なくない。

 労災死が2割増、精神疾患の労災申請が過去最高。このところ発表される労働統計は、現場の過酷な負担を映す。企業にとって労働の位置付けがより一層厳しく問われる夏でもある。

 最近の事案で教訓にしなければならないのが、牛丼チェーン「すき家」の過重労働問題だ。運営するゼンショーホールディングスの第三者委員会が調査報告書を公表し、「法令違反状況」の改善と現場に負担を強いる経営の見直しを迫った。

 「居眠り運転で交通事故を3回起こした。人が採れず金曜から月曜は(24時間連続店舗勤務の)回転になる」「家にも帰れず車また店舗の更衣室などで寝ているのも見た」。報告書には、社員やアルバイトたちの悲痛な叫びが記録されている。

 第三者委は、恒常的に月500時間以上働いたり、2週間家に帰れなかったり、うつ病になったりした従業員がいたことを認定し、サービス残業や夜間の1人勤務も含めて「社員の生命・身体・精神の健康に深刻な影響を及ぼしていた」と断じた。

 重要なのは、過重労働の実態が把握されていたにもかかわらず、経営幹部は企業経営に直結するリスク、重大なコンプライアンス問題と認識することはなかった、という点だ。

 危機意識はあっても、看板である「24時間、365日営業」と店舗拡大路線の維持ができなくなることへの危機意識にとどまり、過重労働による健康問題への認識は深まらなかった。

 結果として退職者の増加で人手不足が加速され、無理が利かなくなったことし2月以降、最大で約250店舗が一時閉鎖に追い込まれた。経営手法が社会的な批判にさらされ、大きな代償を払う事態に至った。

 急成長企業の極端な事例と受け止めてはなるまい。調査に対して「自分も月500時間働いた。今はレベルが低い」と語る幹部がいたが、ゆがんだ成功体験を基に部下に同じような無理を強いる体質は、程度の差はあれ、どこの企業にもある。

 第三者委が提言で力説したように、経営に影響を及ぼすものとして企業が顧客や市場のみを念頭に置いては誤る。

 アルバイトも含む従業員を重要なステークホルダー(利害関係者)と位置付けなければ、企業は立ちゆかなくなることを「すき家」問題は教えている。

 最近は政府が主導する労働時間規制緩和の動きをはじめ、労働環境や条件をめぐる議論が活発になっているが、問われているのはこの視点、企業がどちらを向いているのか、だろう。

 従業員を消費するような労働観に立っていては、利益は長続きせず、社会貢献は絵空事になる。人手不足は今後も続く。まずは働く人を大事にする企業や社会のありようをしっかりと議論することが欠かせない。

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