日本経済新聞 2014/10/1
消費を伸ばして企業の生産活動を活発にし、賃金の上昇や雇用の拡大につなげる。それがまた消費を刺激し、企業の新たな投資を促す――。そうした経済の「好循環」を実現するための課題を政府、経営者、労働組合の代表で話し合う政労使会議が再開された。
経済活性化へ政労使が認識を共有することには意味がある。デフレ脱却を確実にするため重要なのは、賃金を継続的に上げていくことだ。政府と企業にはそれぞれの役割の確認と実行を求めたい。
今春、大手企業は毎月の給与水準を引き上げるベースアップに相次ぎ踏み切った。人手不足で中小企業でも賃上げの動きがみえる。
だが毎月の給与や賞与を合わせた賃金の伸びは、4月の消費税増税などに伴う物価上昇に追いついていない。個人消費を抑え、景気回復をもたつかせている。
こうした状況を打開するには企業が中長期的に収益を上げていけるような環境を整え、経営者がそれに応えて賃金を増やしていくことが必要だ。10%へ消費税率が上がる場合でも、消費者心理を冷やさずに済むことにもつながる。
政府が今年の政労使会議の重点を女性の就労促進など雇用改革におくことは、企業の生産性向上を主眼としている点で妥当だ。成熟産業から成長分野への労働力移動など多面的に議論してほしい。
働く時間の長さでなく成果で賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」は過重労働への懸念などから労働組合の反発がある。政労使会議は労使が議論を深めるいい機会だ。一定期間の労働時間に上限を設けるなどで、折り合う道を探ってはどうか。
昨年の政労使会議は事実上の政府の強い要請を受ける形で、企業が収益の拡大を賃金増につなげていくことで合意した。しかし賃金決定への政府の介入は市場メカニズムをゆがめかねない。
安倍晋三首相は29日の会議で「生産性向上や収益拡大を賃金上昇につなげていくことが重要」と語った。「賃上げありき」でないなら歓迎だ。政府の役割は企業が活動しやすい環境整備にある。鈍り気味の規制改革の加速や法人減税などの着実な実行を望みたい。
肝心なのは経営者の行動だ。上場企業全体で90兆円を超えるまでに積み上がった手元資金を有効活用し、欧米企業に比べ見劣りする収益力を高めることが求められる。企業家精神を問われている。