東京新聞社説 働く人の権利 勇気の訴え孤立させず

東京新聞 2014年10月7日

 働く人には職場の改善を求める権利がある。有名エステ会社の社長が、残業代未払いなどを労基署に通報した社員らに対し、圧力をかける言動をしたことを謝罪した。働く人の声に耳を傾けるべきだ。

 一日に十二時間働き、月八十時間の残業に対して支払われたのはわずか三万円。休日のサービス出勤、有給休暇も使いづらい−。全国に百二十店舗を展開する、エステ業界大手で働く女性社員のケースだった。

 女性が個人加盟の労組「エステ・ユニオン」に入り、残業代の支払いを労基署に申し立てたところ、社長は店舗の従業員を集めた場で女性を名指しし、「労基法通りにやっていたら(会社は)つぶれる」と言った。他の従業員にも組合に加入しているのかどうかを尋ねた。

 労基法を無視する発言や、従業員に労組への加入をただすのは、不当労働行為に当たる。

 労働組合法では、労働者が二人いれば団結権が保障され、団体交渉などを通して労働改善を求められる。現在、企業労働組合の組織率は二割を切る。一方で、個人加入できる労組が増えてきたのは、不安定な非正規労働が広がり、働く人を使い捨てにするブラック企業などが背景にあるからだ。

 労基署は同社に対し、違法な天引きをやめて賃金控除の協定を結び直すことや、有休を使った場合の減給も違法として支払いを勧告した。不足する残業代の精算や、休憩や休暇の取得も求めている。

 批判を受けて社長は、労働法に対する知識や意識の甘さを認めた。労基署の勧告や指導に従い、早急に改善に取り組まないと、働く人はつぶされていく。

 賃金未払いや、残業の押しつけは同社にとどまらず、とくに大手では従業員の共通の悩みになっている。エステ・ユニオンには、エステ業界の従業員から相次いで相談が寄せられている。ノルマ優先で顧客予約が詰め込まれ、休憩も取れない。二十〜三十代が中心の若い職場でありながら、体力や精神的負担が大きいために離職者が絶えない。毎年、大勢の新卒者が入ってくるのに残念だ。

 施術料を安く見せ掛けて顧客を誘い、高額料金を請求したり、商品を半ば強制的に買わせることも少なくない。必然的にトラブルを招く営業のために、前面で顧客の苦情を受ける従業員も傷つく。

 職場の問題に気づき、勇気をふるって告発した人を孤立させてはならない。働く人が守られる職場でありたい。

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