毎日新聞 2014年12月09日
「高齢者が悪いようなイメージを作っている人がいっぱいいるが、子どもを産まない方が問題だ」。またもやと言うべきか、麻生太郎財務相の発言が物議をかもしている。衆院選の応援演説でのことだ。
「みんなで少しずつ負担する以外に方法がない」とも語っており、消費増税への理解を求めることが真意とも取れないことはない。だが、経済的理由や雇用の事情、保育所不足のために出産できない人は多い。産まない女性に責任を押し付けるのではなく、安心して出産や子育てができる政策こそ語るべきだ。
少子高齢化は猛烈な勢いで進んでおり、現役世代3人で高齢者1人を支える「騎馬戦型」から、2050年には1・2人で1人を支える「肩車型」になる。寿命が延びること、高齢者が増えることは変えようがない。それを悪いことのようにイメージするのも正しくない。それは麻生氏の指摘の通りだ。
一方、生まれてくる子どもの数は政治によって変える余地が大いにある。むしろ、出産や子育てに対する政策の不十分さが今日の深刻な少子化を招いたとも言える。
低賃金の非正規雇用が全体の4割近くを占め、若い世代にとってお金がなく生活不安が強いことが結婚や出産のできない大きな理由だ。特に女性の非正規率は高い。出産・育児休暇の際の保障も十分ではなく、保育所不足も出産をためらわせる要因となっている。少子化や家族政策に投じられる公費の割合が日本は先進諸国の中で際立って低いことを忘れてはならない。
安倍政権は保育所拡充など少子化対策に躍起だが、出生率が少々上がっても子どもがすぐに増えるわけではない。現役世代の女性の数はしばらくは減っていき、出生率が改善しても相殺されてしまう。人口の多い「団塊ジュニア」世代が若かったころに出生率が高ければ、少子化はこれほど深刻ではなかったはずだ。
歴代の自民党政権の無策がもたらした少子化でもあり、長らく政権の要職にあった麻生氏にまったく責任がないとは言えまい。現在は副総理でもある。安易に世代間対立をあおるような言説を責任ある政治家はすべきではない。
麻生氏は応援演説の中で、景気回復の実績を強調し、「企業は大量の利益を出している。出していないのは、よほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」とも語った。だが、円安による原材料費の高騰などで倒産する企業は急増し、前年比3倍近くに上る。人手不足も地方の中小企業を苦しめている。
自民圧勝の選挙情勢が流れる中で、少しばかりタガが緩んではいないだろうか。