損保業界のリーディングカンパニー 東京海上日動における「女性活躍?」制度とは

兵庫県立大学客員研究員

         大阪損保革新懇世話人  松浦 章

 

 

安倍内閣は、女性の活躍を打ち出しています。「一億総活躍社会」の実現、特に女性が活躍する社会の創出は、政府の経済政策、いわゆる“アベノミクス”が掲げる重要なテーマのひとつです。

 

損保各社でも、「ダイバーシティ」(雇用の多様性)を掲げ、女性が働きやすい諸制度が完備されていることをうたい文句にしています。しかし現実はどうでしょうか。

損保大手3社の従業員構成を見てみます。

  東京海上日動

グローバル、エリア、その他:サポート社員(有期・時給制、2018

に無期化予定)

  損保ジャパン日本興亜

総合系グローバル、総合系エリア、アソシエイト

  三井住友海上

全域社員、地域社員、アソシエイト社員  

その他:スタッフ社員(有期・時給制)

 

その名称は多少異なるものの、ほぼ共通した区分となっています。特徴は、いわゆる「一般職」を「エリア」とか「地域社員」といった名称で、〈転居を伴う転勤のない総合職〉に「格上げ」し、従来の「総合職」の仕事を肩代わりさせていることです。同様に、パート社員については、無期化する、有期であっても処遇を若干引き上げるなどによって従来の「一般職」の仕事を担わせようとしています。もちろんこれは女性だけの問題ではありません。これまでのように正社員だからと長時間・高密度労働を求めるだけでなく、男性が中心の全国型グローバル社員には、「あなたはグローバルだから」とより一層ハードな働き方を要求する事態が生まれているからです。

 

問題は、「エリア」や「アソシエイト」と呼ばれる社員の大半が女性だということです。女性が転居を伴う転勤が困難なことを前提に「エリア」という制度を設け、賃金格差を「合理化」しているのだとすれば、「女性活躍」ではなく低賃金での「女性活用」制度だと言わざるをえません。

 

 損保業界のリーディングカンパニーと言われる東京海上日動の状況を見てみましょう。同社のCSRレポートでは、女性の活躍推進の取り組みとして「短時間勤務制度」や「勤務時間自由選択制度」を設け、育児との両立支援を行っていることを誇らしく語っています。現実に制度そのものは素晴らしいでしょう。では、その制度は本当に生かされているでしょうか。

同社では、「育児をしながら仕事をすることを選んだ皆さんに」と、人事企画部が『ママパパ☆キャリアアップ応援制度ハンドブック』なるものをつくっています。この「ハンドブック」は、「おめでとうございます!体調はいかがでしょうか?」で始まりますが、次のページではいきなり、「育児をしながら働く環境を整備する努力をまずは自ら行いましょう」ときます。そして、「例えば、当社の所定労働時間は9001700であることから、出産休暇・育児休業からの復帰時には、まずは様々な工夫をして9001700の勤務ができないかどうか努力してみる等の取り組みをお願いします」と書かれています。

「すばらしい」同社の「育児時間制度」はいったいどこへ行ったのでしょうか。その前に、労働基準法第67条で定められた11時間の「育児時間の取得」はどうなっているのでしょうか。 

憲法学者の木村草太さん(首都大学東京教授)は、次のように述べています。

「法以外の規範の特徴は、『普遍性を持たない』ことにある。つまり、特殊

集団のための規範だ。・・内部ルールはいくらでも自由に定めてよい、とい

うものではない。あくまでも法に違反しない範囲で定めなければならない。

たとえば、ある会社で、残業手当を払わないという規則があったとしても、

それは労働基準法違反で許されない」(『現代ビジネス』2016116日)

まさに、東京海上日動の現実の姿を指摘した言葉です。

 

さらにこのパンフでは、次のように「職場メンバーへの感謝の気持ちを行動で表す」ことを求めています。

「皆さんを頑張って支えてくれているメンバーの存在を意識してください。

支えてくれているメンバーに感謝の気持ちを持ち、自分ができることは最

大限自分で行いましょう。また、フォローしてくれたメンバーに対して、

困っている時には積極的に手助けするようにしましょう」

しかしそんなことを言われなくても、多くの女性は、「権利だから育児時間を取ります」ではなく、「周りがみんな忙しくしているのに申し訳ない」といった思いで育児時間を使い(帰れる場合は)早く帰っているのです。そこに「感謝の気持ちを行動で」と追い打ちをかける東京海上日動のやり方に女性への思いやりやリスペクトの姿勢を感じることはできません。

 

同社では、産休前に上司との面談が必須で、「保育所のほかにも緊急時に備えて病児保育などの利用を申し込みましたか」、「身内や知り合いで育児を手伝ってもらえる人はいませんか」、などの質問に対しての回答を面接シートへ記入しなければならないそうです。

これこそ、「個人の尊重」をないがしろにし、かつ、自民党改憲草案24条の「家族は、互いに助け合わなければならない」という条文を先取りして、女性に一方的な自助努力を押し付けるものと言わなければなりません。

 

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