損保業界最大手・損保ジャパン日本興亜 違法な「営業」職への「裁量労働制」国会で追及される

          兵庫県立大学客員研究員

              大阪損保革新懇世話人 松浦 章

 

322日の参議院・厚生労働委員会で小池晃議員(日本共産党書記局長)が損保ジャパン日本興亜の違法な労働時間制度を取り上げました。同社では、4年目以上の総合系、専門系、技術調査系職員6,000人以上に「企画業務型裁量労働制を導入しています。その規模もさることながら、問題は職種です。本来「企画業務型裁量労働制」の対象外であるはずの、営業や保険金サービス(自動車保険などの損害調査・保険金支払い)の職員に対しても、この制度が広く適用されているのです。

 

厚生労働委員会での質疑は概ね以下のとおりです。

〈小池晃・参議院議員〉

「損保ジャパン日本興亜の人事部資料を見ますと、企画業務型裁量労働制の対象として「営業」とはっきり書かれております。これは明らかに対象外だと思います。実際、労働者へ聞いたところ、支店とか20人から30人程度の支社の一般の営業職にまで企画業務型が導入されている。指針では、これ、対象要件は、支店、支社の場合も、本社の具体的な指示を受けることなく独自に事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業を計画する。もうとてもそんなことできない職場だと思いますよ、この今の支店、支社。これ直ちに調査すべきじゃないですか」

〈山越敬一・労働基準局長〉

「個別の事案に関することについてのお答えは差し控えさせていただきたいと思います。一般論といたしまして、企画業務型裁量労働制の対象業務外に従事されている方の場合には通常の労働時間管理の下で行っていただく必要があるわけでございます。労働基準監督署といたしましては、いずれにいたしましても、法に違反するような事実が確認された場合にはその是正について指導を行ってまいりたいというふうに思います」

〈小池晃・参議院議員〉

「個別企業の問題は答えられないといつも出てくるんですけれども、大臣、 

これ実は、政府は昨年12月に、損保ジャパン日本興亜を『女性が輝く先進

企業』として総理大臣表彰を行っているんですよ。個別企業を表彰しておい

て、問題があると指摘すると個別企業のことは言えないというのは御都合主

義だと私思います」

〈塩崎恭久・厚生労働大臣〉

「個社の問題についてはコメントは差し控えたいと思いますけれども、実際、

企画業務型裁量労働制と銘打っていながら必ずしもその法律の趣旨並びにそ

の定めに合っていないというものについては、当然、不適切な運用でありま

すから、これは労働基準法違反ということを確認された場合には当然しっか

りと指導して、厳しく指導していかなきゃいけないというふうに思います」

 

塩崎厚労大臣はまた、現行労働基準法における「企画業務型裁量労働制」の規定は「(営業は)自社の経営そのものに影響を与えるような先であったり、あるいは事業場でも全体に影響を与えるようなものに限られる」と答弁しました。

そのとおり、厚生労働省労働基準局監督課の通達(厚労省ホームページ「裁量労働制の概要」)を整理すると、次の3要件をすべて満たす業務と言えます。

?   会社運営の企画、立案、調査分析の業務

?   仕事の進め方を大幅に従業員に任せる業務

?   時間配分について上司が具体的な指示をしない業務

したがって、会社をあげて行う企画の内容を考える主体となったり、新しく参入する事業を検討したりするなど、会社の「舵取り」にかかわる仕事がこれに該当すると考えられます。指示を受けて行う単純な事務仕事等は対象とはなりえません。また上司に勤務時間を管理されているような仕事に対しては適用できないことになります。だから、あの「電通」ですら、現行の労働基準法ではハードルが高いと、「営業」職への「企画業務型裁量労働制」導入を断念せざるをえなかったわけです。

 

損保ジャパン日本興亜も規定上は「事業運営上の重要な決定を行う事業場において企画・立案・調査および分析の業務を行う者が、業務遂行において、自らの裁量により手段や時間配分などの決定を行う制度」としています。労働時間管理についても「成果達成に向けて自己の裁量で自由に勤務。・・・自己の裁量により正午までの間で出社時間を自由に決めることが可能」と「自己の裁量」を強調しています。

しかし6,000人もの労働者すべてが「事業運営上の重要な決定を行う事業場において企画・立案・調査および分析の業務」に携わっているのでしょうか。およそ考えられません。また入社4年目の社員と言えば、2627歳です。これらの若い社員が「自己の裁量で自由に勤務」できるものでしょうか。これも少し考えただけでわかることだと思います。

 

問題にすべきは「企画業務型裁量労働制」だけではありません。同社では、裁量労働制の対象にならない入社4年未満などの営業・保険金サービス部門2,000人に「事業場外労働制」を適用しています。この制度は「事業場外で業務に従事した場合、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものと」(労基法第38条の2みなすものです。しかし損保の営業や保険金サービスの仕事は、けっして労働時間の把握が困難なものではありません。営業であれば代理店を訪問することが中心業務です。行き先ははっきりしており連絡も簡単に取れる状況にあります。制度導入自体、労基法違反と言わなければなりません。この制度により、外出する日は、どれだけ働いても1日の労働時間は「みなし労働時間」の8時間しかカウントされないのです。結果、多くの労働者がサービス残業を余儀なくされています。

 

また同社の場合、「管理監督者」の多さも指摘しなければなりません。労働基準法第41条は、いわゆる「管理監督者」について、労働時間、休憩および休日に関する規定の適用の除外を認めています。しかし2008年の厚生労働省の通達で、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」を言い、役職名で判断するものではないとされています。つまり課長だから「管理監督者」というわけではないのです。しかし同社は、「経営者と一体的な立場」とは到底考えられない多くの課長クラスをも「管理監督者」とし、一切の残業料を支払っていないのです。

 

これら「管理監督者」「企画業務型裁量労働制」「事業場外労働制」を合計すれば、約18,000人の同社職員のうち、実に6割の労働者が残業料支払いの対象外となっています。もはや相対的に高賃金の労働者には「残業」という概念はないということです。

これこそ、「労働時間概念」を捨て去ろうとする政府・財界の労働法制「改正」を先取りするものだと言わなければなりません。

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