東京海上日動が営業職への「裁量労働制」適用を停止

 東京海上日動が営業職への「裁量労働制」適用を停止

 
                 兵庫県立大学 客員研究員 
                 大阪損保革新懇 世話人  松浦 章
 
「裁量労働制」を幅広く導入し、現行労働基準法に抵触する「営業」職にまで拡大してきた損害保険業界で大きな動きがありました。業界のリーディングカンパニー・東京海上日動が、「企画業務型裁量労働制」の「営業」職への適用を2019年10月以降停止することを明らかにしたのです。
 
同社の説明は次のような内容です。
「労基署から適正さを欠くケースが生じていると指摘されているわけではないものの・・・「調査」「分析」に該当すると整理している業務について、当該業務への従事実態によっては、事業の運営に関する「調査」「分析」に該当しなくなる可能性があり、今後当社のビジネスモデルが変遷し、それに伴い業務内容が変わっていく可能性があることを否定できない中で、将来にわたって対象業務の適正さを担保するため、改めて労使委員会において対象業務について調査・審議することを労基署から求められている」
「苦渋の決断であるが、2019年10月以降、担当業務や所属組織にかかわらず、裁量労働制の適用を停止することとしたい」
 
回りくどい言い方ですが、要は、これまで「営業」職への導入についても、その運用についても何の問題もなく、労基署から指摘されることもなかったが、今般、将来不適切な運用となる可能性があるので考えなさいと労基署から言われたので停止する、といったところでしょう。何も問題がないと同社が考えるのであれば、やめる必要などないと思うのですが、おそらく「苦渋の決断」をせざるを得ない何かがあったのでしょう。
 
実は、問題がないどころではありません。東京海上日動は「企画業務型裁量労働制」を、現行労働基準法では対象外の「営業」職も含め、2006年4月から本格実施してきました。みなし労働時間は1日あたり8時間15分です。8時間15分と言えば、9時出社であれば18時15分終業が基本となり、他の損保会社と比べてもかなり短い設定となっています。同社は、「『早朝残業』や『夜遅くまでの残業』が恒常化して長期間労働に繋がる事態になれば、適用者本人の時間管理が不十分」と言わざるをえないと述べ、すべて当該者の自己責任にしてきました。もちろん短時間で仕事が終わるのであればそれに越したことはありませんが、対象者は職場の中心を担う層です。現実の労働時間がみなし労働時間内に収まっているとは到底考えられません。百歩譲って、仮に労働時間が概ね適正であったとしても、「営業」職の労働者への適用は明らかに労働基準法違反なのです。
 
ご承知のとおり、安倍内閣は、2018年度の通常国会で「企画業務型裁量労働制」の「営業」職などへの大幅拡大を図りましたが、ねつ造データの発覚により断念せざるをえませんでした。しかし、大手損保会社では、労基法「改正」を先取りするかたちで、「企画業務型裁量労働制」をはじめとする「みなし労働時間制」が導入され、長時間労働とサービス残業の隠れ蓑となってきました。
現在、損保ジャパン日本興亜、三井住友海上には「企画業務型裁量労働制」と「事業場外労働制」が、あいおいニッセイ同和、東京海上日動には「企画業務型裁量労働制」が導入されています。いずれもまっとうな制度ではなく労働基準法違反と言わなければなりません。
 
なお、損保ジャパン日本興亜の「企画業務型裁量労働制」については、2017年3月22日の参議院・厚生労働委員会で、日本共産党の小池晃議員が取り上げました。小池議員は、「損保ジャパン日本興亜の人事部資料を見ますと、企画業務型裁量労働制の対象として『営業』とはっきり書かれております。これは明らかに対象外だと思います。実際、労働者へ聞いたところ、支店とか、20人から30人程度の支社の一般の営業職にまで企画業務型が導入されている。これ直ちに調査すべきじゃないですか」と追及しました。
小池議員の国会質問のみならず、SOMPOホールディングス(損保ジャパン日本興亜の金融持ち株会社)株主総会での質問など、大阪損保革新懇のさまざまな運動が同社に対する社会的な批判を広げる役割を果たしてきました。筆者自身も10年来、学会・研究会・集会等で損保業界の違法な労働時間制度を取り上げ、政府・日本経団連がすすめようとしてきた労働基準法「改正」に警鐘を鳴らしてきました。その結果、損保ジャパン日本興亜は、すでに「企画業務型裁量労働制」の「営業」職への適用を撤回しています。
 
今回の東京海上日動の「営業」職への適用停止も、同社の挙げる理由はともかく、この間の運動の大きな成果と言えます。引き続き違法な労働時間制度を是正させるたたかいが必要です。

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