天笠崇医師 労働関連自殺は本当に増えているのか? (前篇) (5/30)

 労働関連自殺は本当に増えているのか? 精神科医・天笠崇が考える「労働とメンタルヘルス」(前篇) 

Working Life and Mental Health

https://gqjapan.jp/life/grooming-health/20190530/working-life-and-mental-health-1

2019.05.30 GQ Life

 

代々木病院精神科内に「労働精神科外来」を開設した天笠崇医師に、労働者の精神疾患、うつ病の対策について話を聞いた。その前篇をお届けする。

文・杉本航平 写真・長尾大吾 イラスト・Getty Images 編集・横山芙美(GQ)

 

2019年4月1月から、働き方改革関連法(註1)が施行された。この法律の実施によって、うつ病発症の大きな要因のひとつである長時間労働の上限規制が設けられるため、労働者のメンタルヘルスの改善につながることが期待されている。一方で、職場のストレスには仕事における裁量の範囲や職場の人間関係から生まれるものもあるので、法律では規制しきれないさまざまなストレス要因をどう考えていくか、ということが課題になってくる。

 

代々木病院精神科科長の天笠崇(あまがさ たかし)医師は、20年以上にわたって過労性精神疾患の研究や労災請求の意見書作成、産業医としての活動など、労働者の精神疾患にかかわる仕事を精力的に行ってきた。2015年には代々木病院内に、全国でも珍しい「労働精神科外来」を開設し、週1回、有職者と休職中で復職を目指している人々を中心に診察している。

 

私たちは、労働と自身のメンタルヘルスとの関係をどのように捉えていけばよいのか。そして、うつ病になってしまったらどうすればよいのか。天笠医師に話を聞いた。

 

(註1)

働き方改革関連法:長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指し、労働基準法や労働契約法など、8つの法律を改正対象とした「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」のこと。

 

 

「労働精神科外来」とは?

 

──はじめに、天笠さんが「労働精神科外来」を作ったきっかけを教えてください。

 

天笠:大きな理由として、2008年の診療報酬改定によって精神科外来や精神科クリニックの診療報酬が抑えられてしまったことが挙げられます。われわれの行っている診察は「通院・在宅精神療法」という区分にあたり、その改定によって診療時間が5分未満だと診療報酬が算定できなくなりました。そして、5分以上30分未満の診察が330点、30分以上が400点と定められ、5分で診察することがもっとも“医療経済的”とされるようになってしまいました。つまり、“最低5分”という制限が生まれ、1日に診ることのできる患者の数が限られるようになってしまったんです。

 

するとなにが起こるかというと、時間をかけた診察が必要な患者のための時間を作ることが難しくなっていく。その状況を改善し、できるかぎり丁寧な精神科外来診療を行いたいという思いから、働く人のための精神科医療に限定した労働精神科外来を立ち上げるに至りました。

 

──代々木病院精神科では複数の先生が診察をされていますが、労働精神科外来はどのようなメンバーで構成されているのでしょうか。

 

天笠:労働精神科外来として診察を行っているのは私だけです。ほかの先生がたは、あくまでも通常の診療の範囲内で、労働者を含めた精神疾患を抱えた患者さんを診察しています。ただ、診療はチームとして、精神保健福祉士や看護師、医療事務といったコ・メディカルスタッフたちとともに行っています。彼らは、例えば労働災害による保障や保険の請求など、労働精神科外来で必要とされる諸制度について精通しています。


この記事を書いた人