読売新聞 社説 「無給医」問題 不適切な労働慣行を改めよ
2019/07/05 05:00
診療に携わりながら、働きに見合う給与を支給されない。不適切な「無給医」の慣行を改める必要がある。
文部科学省が全国108の大学病院を調査したところ、2191人の無給医が確認された。大学教員らを除いた約3万人の勤務医の約7%に当たる。
「精査中」と回答した大学病院もあり、最終的な無給医の人数はさらに増える可能性がある。
文科省が労務管理の改善を求めたのは当然だ。各大学病院は適切な支払いに努めてもらいたい。
無給医の多くは、医師免許を持つ大学院生や、専門医を目指す専攻医らだ。大学病院は、こうした医師が自己研鑽けんさんや研究目的の一環で診療を行っている、という理由で給与を払っていなかった。
ところが、実際は診療のローテーションに入るなど、通常の勤務医と変わらない仕事をしていた。労働者としての実態があるのは明らかである。労働者への給与支払い義務を定めた労働基準法に抵触する疑いが強い。
大半の無給医は、他の病院でのアルバイトで生計を立てており、過剰労働に陥りやすい。疲れのたまった状態で診療を行えば、ミスの可能性が高まり、患者を危険にさらすことになりかねない。
見過ごせないのは、雇用契約が結ばれていない医師と労災保険に未加入の医師が、全国の大学病院に6000人以上いたことだ。
雇用契約がなければ、勤務時間や休暇の管理が行われない。労災保険に加入していないと、院内感染などの際に、労災認定を受けられなくなる。大学病院は、早急に是正しなければならない。
無給医の慣行が大学病院で続いていた背景には、「医局」の仕組みがある。医局は、教授を頂点とするピラミッド構造で、大学院生や専攻医は底辺にいる。
医局の教授は、博士号の取得や、専攻医らの就職先となる関連病院の人事に強い影響力を持つ。このため、不適切な処遇を受けても、大学院生らは改善を要求できなかった面もあるのだろう。
大学病院では給与を払える医師の数は限られている一方で、業務量は多いため、無給医で業務を維持させているとの指摘がある。
医師の少ない地方の病院に、大学病院から無給医がアルバイト医師として派遣され、地域医療を支えている実態もある。
医師の人手不足を無給医で穴埋めするという、いびつな構造をどう改善していくのか。総合的な対策の検討も求められる。