井上伸さん「公務員の削減で災害対応が困難に」
井上伸@雑誌KOKKO
https://twitter.com/inoueshin0/status/1183681290756743169
6:49 PM · Oct 14, 2019
(W)Twitterにupされた、とても的確な問題指摘です。Twitterの字数制限(140字上限)があるので5000字以上の文章を30数回の個別文章に分かれてアップされていたものを読み易くまとめて見ました。井上伸さんのプロフィールは、次の通りです。国公労連の雑誌『KOKKO』編集者(国公労連=日本国家公務員労働組合連合会)。グラフフェチ。福祉国家構想研究会事務局員。山家悠紀夫先生との共著『消費税増税の大ウソ―「財政破綻」論の真実』(大月書店)あり。雑誌『KOKKO』
〈公務員の削減で災害対応が困難に〉
国土交通省の中で防災の最前線となる地方整備局。地方整備局の職員はこの12年間で4千人以上(18%)も減らされました。この職員の削減によって、いざ災害が起きたとき最前線に立たなければいけない出張所の体制が取れなくなっています。
災害対応には多くの業務があり、まず現場の被害状況を把握した上で関係自治体と連絡を取り災害対応のための業者や資材の手配をする必要があります。ところが職員が削減されていて災害が起こっていないくても普段の業務をこなすのも困難になっているので更に災害対応は困難になっているのです。
また、国家公務員の新規採用者の抑制が行われたときの年齢層の空洞化の影響が大きく、20代の職員が極端に少ないので業務の安定的な継続もままならない状況も広がっていることが、災害対応をより一層困難にしています。
地方整備局の職員数削減だけでなく、気象庁の職員も削減されて気象官署の数も減らされています。阪神淡路大震災の頃は気象台以外にも各地に測候所があったのですが、現在は帯広(北海道)と名瀬(鹿児島県)の2カ所のみで、それ以外は廃止されてしまいました。各都道府県の気象台は現在24時間体制。地方気象台には夜間2人で勤務していますが、来年度以降は夜勤を無くし、天気予報や警報・注意報の発表業務を地元の気象台ではなく地方予報中枢官署(札幌、仙台、本庁、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、鹿児島、沖縄)でまとめてやる計画が進んでいます
気象庁の職員が減らされ観測体制も縮小させられている一方で、よりきめ細かい気象情報が求められるようになっているため、長時間過密労働が増え心身ともに不調をきたす職員が増えているのが現状です。
〈ブラックアウト下で市民のために奮闘する国家公務員〉
北海道胆振東部地震において国土交通省の地理院の職員は職員数が少ないため連続する徹夜業務で地図情報を伝え続け、気象庁地震課は現地の被害確認業務、経済産業省の防災、製造、電気などの産業の担当が道内のブラックアウト対策を行いブラックアウト下で一刻も早い発電施設の稼働が求められたわけですが、実際に発電するためには、設備だけでなくさまざまな原料が必要とされます。調達できる近郊の製造業等の稼働状況が確認できなければ、電気が安定して供給できるのか判断はできません。
また今回のブラックアウトでは広範囲の停電で通信網も途絶えましたが24時間体制で対応したのは総務省北海道総合通信局の仲間です。密接に関連するさまざまな産業の被害情報を迅速に確認した公務員の奮闘により、ブラックアウトにおいても市民生活の早期回復が果たされました。
こうした公務員の業務は当人たちにとっては当然のことで、ひけらかすことではないため、市民の「普通の生活」にどれだけ公務員が関わっていたのかを宣伝したりすることないわけですが、公務員の削減が続くなか、災害から国民の安全・安心を守る公務員を増やすことの重要性を発信しくことが必要です。
〈テックフォースでのべ6万人が被災地支援〉
テックフォースは「緊急災害対策派遣隊」のことで、私も隊員なのですが地方整備局の職員を中心に9,663人(2018年4月時点)が登録されています。大規模な自然災害が発生した場合に派遣され、自治体を支援します。テックフォースの発想が生まれたのは、1995年に発生した阪神淡路大震災のときに大規模な災害だったものですから地元だけの対応では無理で、そのときはまだテックフォースという名前も制度もなかったのですが、全国各地の広域から支援に入ったことにあります。
こうしてテックフォースは2008年4月に創設されて最初に出たのは同年6月に発生した岩手・宮城内陸地震で、それ以降、2018年3月末までに東日本大震災をはじめ81の災害に対し、のべ6万人を超える地方整備局などの職員による被災地支援を実施しています。
東日本大震災のときに救命・救援ルートを確保するために被災7日後に国道を切り開いた「くしの歯作戦」がありましたし、私もテックフォースで現地に4月の第1週に行って、津波で水浸しになっていてご遺体の捜索ができないので、水を抜いて水位を下げてご遺体の捜索ができるようにしました。
排水ポンプ車という自家発電機で電気を起こして水中ポンプを稼働させて水をくみ上げる車が200台近く東北に行って太平洋沿岸でずっと排水していました。テックフォースの隊員は9,663人で、派遣実績はのべ6万2,952人ですから、単純平均で1人6回以上派遣されていることになります。
テックフォースの問題点はいろいろあるのですが、いちばん大きな問題は圧倒的に職員が不足している中で現地に行かなければいけないということです。この間の定員削減により通常業務を行うことも困難になっているのに加えてテックフォースでの派遣というのは職員に大きな負担になっています
私は個人的にはテックフォースは国際救助隊のように、中国で災害があったら日本の災害の専門家として飛行機も持って飛んで行くということをやれば、自衛隊を海外派兵するよりよっぽど国際貢献になると思っています。
災害対応のプロの専門組織を国土交通省としてつくって、年がら年中訓練も研修もして、自分たちがきちんと災害対応のプロになって人に教えたり、自治体の人に研修したりして、普段はそういうことをやりながら、いざ災害時には飛んで行くというシステムをきちんとつくる必要があると思います。
阪神淡路大震災の半年ぐらい前に、洲本測候所が無人になって機械化されていたりして、震度7の発表が遅れました。災害対応の現場から職員がどんどん削減されてしまって、災害のときにもしそこに職員がいたら災害対応ができたのにと思うことはたくさんありますね。
〈災害現場での委託労働者の労働安全衛生〉
私は東日本大震災のテックフォースのとき委託労働者の方とずっと一緒でした。ポンプ車を24時間ずっと動かす仕事なので過酷な労働条件でした。災害対応にかかわって労働安全衛生がきちんと守られていなかったり事前の訓練がされていない問題があります。
災害対応という危機管理の仕事をするのに委託労働者を使うことが問題で、危機管理の最前線で仕事をする自衛隊や消防や警察に委託労働者がいますか?という問題だと思います。
普段でも危険な仕事をしていてテックフォースで災害現場の最前線に行って仕事をするのは危険に決まっている。そこに委託労働者に仕事をさせるというのは、本来は成り立たないことだと思います。テックフォースにおける災害現場においても労働者の安全という面から見ても公務員を増やすことが急務です
〈国民の安全脅かす定員削減とインフラ設備の老朽化〉
地方整備局の普段の仕事はインフラ設備の維持・修繕を行っているわけですが、地方整備局の職員は定員削減によって直近の10年余りで4千人以上減らされ、気象庁職員も同じ状況にあります。職員の削減に加えて、国道の維持・修繕費はピークだった1998年の6,560億円が2015年には3,900億円に削減されています。毎年、全国で100件以上の道路陥没が発生していますが、対策は後手に回っています。
高度経済成長期に作られたインフラ設備が設計上の耐用年数である50年を経過する割合が2032年には道路橋(約70万橋)が67%、河川管理施設(約1万施設)が62%、トンネル(約1万本)が56%、湾岸岸壁(約5千施設)が56%にのぼります。
自然災害がなくてもインフラ設備の老朽化によって国民の安全・安心が脅かされているのです。インフラ設備の9割以上は地方自治体が直接は管理していますから、地元建設会社がきちんと維持・修繕をすれば社会保障と同じように地元を潤し地域経済も維持できるようになるはずです。
ところが、インフラ設備の維持・修繕費は削減するし、地方自治体は合併し公務員を削減するしで持続可能な地方経済の循環を奪っていくばかりです。公務員の削減とインフラ設備の維持・修繕費の削減を並行させる今の新自由主義的な行政が根本的に間違っていると思います。
たとえば、「ここに今までなかった高速道路を作ったら、ここの地域経済の活性化になる」と言う。物流が生まれて工場が来るとか「競争力が増す」などと言うのですが、維持管理は競争力が増さないからないがしろにされるわけです。
安倍政権は「国土強靭化」とよく言っていますけど、災害に強い国土をつくろうと思ったら、災害に強い建設業界をつくる必要があるのです。東京に立派な本社ビルがあるスーパーゼネコン5社が「競争力が増す」とされる高速道路などを作って大儲けしていても、彼らはクレーンも持っていないし、ノミの1つも使えないのです。技術力のある建設労働者が全国各地にきちんといなければ、国民の安全・安心を守ることはできません。そして、国土交通省に技術力のある職員が全国各地に必要です。
〈雪害対応で1週間缶詰に〉
私の職場では月の残業が80時間を超える職員ばかりです。私の職場は交代制勤務ではないので、たとえば夜9時から台風に対応する体制に入ると、大体次の日の朝9時まで仕事することになります。その間、仮眠をとってもいいということにはなっているんですけど台風に対応する体制に入るとパトロールをする必要があって、もし土砂崩れなどが起きたら現地にすぐ調査に行く必要があるので実際には全然仮眠は取れないのですが、それが終わっても自分の有給休暇を使うなら帰ってもいいよとなるので、長時間労働になるのは当たり前です。
北陸豪雨の対応で、警察や自衛隊はきちんと交代要員がいるのに、国土交通省の職員は30数時間も交代要員もなく仕事を続けて「死ぬかと思いました」と局長交渉で発言した職員がいましたが酷い実態です。
私は2014年に甲府に百何十年ぶりに降ったという雪害の対応で1週間出張所に缶詰になったことがあります。最前線の現場である出張所の職員は自治体や地元の業者の方とのつながりがいちばんあるので、「これをやってください」「あれをやってください」と対応をお願いする必要がありますしいろいろなところから24時間電話がかかりっぱなしになるので出張所の職員がいなければスムーズに雪害対応ができないのです。一緒に雪かきをしていた自衛隊は8時間経ったらきちんと交代するのですが、私たちはそもそも交代要員がいないのでずっと対応せざるを得ないのです。
公務員が削減されて通常の仕事だけで多忙になってくると、公務員がルンペン化すると言うか、流れに身を任せるだけで自分で物事を全く考えなくなってくる側面もあると思います。「なんでこんなことをやらせるのですか」「必要ないじゃないですか」という一言も時間を使うことになるから
「はい、わかりました」と対応してしまう。上から言われたことに逆らったらそれだけ時間も取られるし面倒くさいので、とにかく流れに任せてやった方が楽だというので上意下達で物事が進んでいくシステムになってしまっていると思います。
ある意味、政府が定員削減をするのはそういう側面もあると思います。上から言われたことに全部従う職員にするには仕事に埋没させるのがいちばんで、仕事に埋没させるには余裕を与えないように職員を減らす。
そうすると、霞が関本省の言うことは絶対であり、国会の言うことは絶対であり、首相の言うことは絶対であるという世界が出来上がってしまうのではないかと危惧しています。私たち公務員は国民に雇われているので、国民に必要だと思ってもらう公務員でなければいけません
昔、職場の先輩に「地方自治体の職員がそこに住んでいる住民のことを考えていなかったら、その職員は住民にとって悪でしかない。同じように国民のことを考えない国家公務員は悪でしかない。存在すら許されないんだ」と言われました。
いまこそこの言葉をかみしめて公務員の労働組合は運動をすすめる必要があると思います。常時も災害時も国民の安全・安心を守るために私たち公務員は仕事をする必要があるので、職員を増やして体制を拡充することが不可欠だと発信していきたいと思っています。