どの国でも働ける!ウーバーイーツの本当の“衝撃”
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2019/11/18(月) 6:00配信 JBpress
どの国でも働ける!ウーバーイーツの本当の“衝撃”
ウーバーイーツの配達員。2019年6月8日、英国ロンドンで撮影(写真:ロイター/アフロ)
(加谷 珪一:経済評論家)
配達員による労働組合結成や商品投げ捨て事件など、このところウーバーイーツ(UberEATS)がメディアに取り上げられるケースが増えている。これだけ話題になるということは、ウーバーが急速に社会に普及していることの裏返しといってもよいだろう。
【写真を見る】受け取りを拒否したら、ウーバーイーツの配達員に捨てられた食事。
同社の配達員に代表される、いわゆる「ギグエコノミー」(ネットを通じて単発の仕事を受注する働き方)は、労働に対する価値観を一変させるとも言われているが、一方で、低賃金の温床になる可能性も指摘されている。今後、拡大が予想されるギグエコノミーについて私たちはどう対処すればよいのだろうか。
■ 配達員が労働組合を結成
飲食店の宅配代行サービスを手がけるウーバーイーツの配達員らが2019年10月3日、労働組合「ウーバーイーツユニオン」を結成した。
ウーバーイーツの配達員は、会社と雇用契約を結んでおらず、法律上は社員という扱いにはならない。最低賃金や労災などについて定めている労働法制はあくまで労働者を保護するものであり、個人事業主は経営者という扱いなので法律の対象外となる。ウーバーの配達員も、実態は従業員に近いのだが、法律上は個人事業主であることから、ケガをした場合などでも労災保険は適用されない。
ウーバー側もこうした問題について十分認識しており、配達中の事故でケガをした場合には25万円を上限に治療費を支払う制度をスタートしているが、十分とは言えない。新しく結成された組合では、配達員への補償拡大や報酬の透明化などをウーバーに求めていくという。
“会社に完全にコントロールされた労働者”と“個人事業主”の違いが際立ってしまったのが、10月に発生した商品投げ捨て事件だろう。
ある利用者がウーバーイーツで商品を頼んだところ、予定時間から30分も遅れた上に、スープがこぼれていた状態で到着したという。利用者が受け取りを拒否したところ「本部に確認します」と言ったまま配達員は戻らず、マンションの共有部に料理が袋ごと投げ捨てられていた(下のツイートを参照)。
Uber Eats頼んだら、配送30分ぐらい遅れたうえに、スープこぼされてグチャグチャになってたから受取拒否したら、マンション共有部分に投げ捨てられてた。かなりありえないんだけど、サポートに連絡したら、個人事業主だから関与できない、勝手に警察に連絡しろの一点張り。ありえない…。@UberEats_JP pic.twitter.com/MxqpA46x3t
― Junya ISHINO/石野純也 (@june_ya) 2019年10月5日 ウーバーのサポートセンターに連絡したところ、配達員は個人事業主なので、(配達員が行った投げ捨て行為について)ウーバーは関与できない」「警察に連絡してほしい」と言われたそうである。この話がツイッターで拡散し、ネットではちょっとした騒動になった。
■ 同様のケースはずっと昔からあった
法律上、配達員は個人事業主なので、配達員が行った不法行為(あるいはそれに近い行為)については、確かにウーバーが直接、責任を追うわけではない。ただサービス提供者として、そうした配達員の行為について調査したり、その状況を利用者に説明するといった対応はあってもよいだろう。
この話題は、ウーバーイーツという外国発の新しいITサービスであったことから、世間の注目を集めたが、個人事業主がサービスを提供することによる問題というのは以前から存在しており、ウーバーに限ったことではない。
代表的な例はバイク便だろう。かつて一部のバイク便の会社は、配達員を従業員ではなく個人事業主として扱っており、「配達員が起こしたトラブルについては責任を負わない」としていた。だが利用者からの批判などを受けて、厚労省が指導に乗り出し、最終的には労働者という位置付けで処遇されることになった。
タクシー業界でも似たようなケースがあった。タクシーの運転手はれっきとした従業員だが、一部のブラックなタクシー会社は、個人事業主に近い完全歩合制の賃金を導入し、最低レベルの賃金すら払わないケースがあった。このため運転手が近距離の乗客に暴言を吐いたり、乗車拒否をするといった事例が相次ぎ、一時は社会問題にもなった。最終的には業界全体で適正化が進み、運転手の労働環境はかなり改善してきている。
つまり、ウーバーイーツのようなトラブルは昔からよくある話であり、もしこのサービスが社会に広く普及することになれば、ほぼ確実に労働法制に準じた対応が求められ、配達員の環境も改善していくはずである。
一部にはウーバーのようなシェアリングエコノミーの到来で、奴隷労働が横行すると危惧する人がいるが、少なくとも先進国の法体型において、奴隷労働が広範囲に放置されるとは考えにくい。
■ 労働に対する価値観を根本的に変える可能性も
むしろ筆者は、ウーバーに代表されるギグエコノミーが社会に普及した場合、グローバルレベルでの働き方や人の移動が激変すると見ており、むしろその影響が大きいのではないかとみている。
ウーバーの配達員の仕事というのは、スマホ一つあればすぐに従事することができる。ラクな仕事ではないものの、しっかり働けば1日に1万円以上は稼げるので、この仕事があれば、最低限の生活は維持できる。
確かに現時点のウーバーにはいろいろな問題があるかもしれないが、さすがにウーバーのような企業が、配達員に対して1円も払わないといった不法行為は行わないだろう。見たことも聞いたこともない会社で同じような仕事をすることに比べたら、配達員の精神的負担は軽いはずだ。
しかもウーバーはグローバル企業なので、まったく同一のサービスを全世界で展開している。通常、いきなり他国に行ってまともな仕事を見つけることはほぼ不可能だが、ウーバーのような会社の場合、どの国に行っても、すぐに仕事に従事できる(当然、ビザを保有していることが大前提だが)。
外国人を事実上の奴隷労働に従事させる悪徳企業は各国に存在しており、日本もその例外ではない(外国人研修制度や技能実習制度という名の下に、事実上身柄を拘束し、劣悪な環境で働かせるという犯罪行為が日本でも平然と行われている)。外国で単純な仕事を見つけようとしている労働者にとっては、常に危険と隣り合わせというのが現実である。
そうした中で、賃金があまり高くないとはいえ、グローバルなシェアリングエコノミー企業が、全世界で一定水準の労働環境を提供できるというのは従来にはなかった現象である。
このような企業が増えてくれば、単純労働に対する価値観も大きく変わる可能性があるだろう。実際、都内で見かけるウーバーイーツの配達員の中には、外国人と思われる人も珍しくない。
労働法制というのは、雇用形態や個別の経営環境、経営者の所事情など一切関係なく、あらゆる企業が遵守すべきものであり、それが実現できなければ先進国とは言えない。ウーバーの体制に問題があるのなら、常に改善を求めていくべきだし、こうした対応は、ウーバーのような新しいシェアリングエコノミー企業のみならず、すべての企業を対象にする必要があるだろう。
むしろウーバーのようなグローバル企業が全世界で同一の労働環境を提供している方が、問題点を指摘しやすく、是正を求めることも容易である。ギグエコノミーを一方的に問題視するのではなく、こうしたプラスの面を評価した方がずっと合理的であり、最終的には労働者の利益にもつながるはずだ。
加谷 珪一