河合薫さん 「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任” (12/13)

河合薫 「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任”
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2019/12/13(金) 8:00配信 ITmedia ビジネスオンライン

「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任”

電通の本社ビル。長時間労働は是正されているのか(写真:ロイター)

 「社長として重大な責任を感じている。当社の最大の誤りは、『仕事に時間をかけることがサービス品質の向上につながる』という思い込みを前提にしたまま、業務時間の管理に取り組んでいたことにあると考えております」――。

 2017年9月22日。東京簡易裁判所に出廷した電通の山本敏博社長は、こう謝罪しました。

 罪状は「労働基準法違反」です。検察側の冒頭陳述によれば、「36協定」の上限を超える残業をした社員は毎月1400人前後(14年度)。東京五輪・パラリンピック関連業務を担当する機会を失わないために、36協定の上限時間を最大100時間に引き上げ、形式的に違反の解消を図るなど、極めて悪質でした。

 法人としての電通と当時の上司の部長が書類送検され、上司らは不起訴処分に。一方で、法人としては労働基準法違反罪で略式起訴となりました。

 しかしながら、東京簡裁には電通社員の出退記録など大量の証拠が押収されており、書面の審理だけでは不十分と判断。“法人”という無責任な集合体に責任を科すだけではなく、法人の顔=山本社長が出廷する異例の公開裁判となったのです。

 それからというもの、電通に勤める知人たちも「残業できないからさっさと帰りま〜す」だの、「休日出勤できないので週明けに仕切り直しま〜す」だのと働き方を変えるそぶりを見せていたので、私は電通の変化を肌で感じていました。

 ところが、です。

 なんと、またもや電通が社員に違法残業をさせていたことが発覚。裁判で山本社長が頭を下げた翌年の2018年、営業関連の部署に所属する4人に36協定で決めた上限時間を超える残業をさせていました。最長は156時間54分で過労死ライン(月80時間)の2倍です。事前申請をせずに上限を延長した事例も6件あったといいます。

 まったくこの会社のトップは何を考えているんでしょうか。深々と高橋まつりさんの遺族に頭を下げたのは何だったのか? そもそも企業の責任をなんだと考えているんだ?

 まさか「50万払えばいいんだから」(17年の有罪判決時の罰金)と軽く見た? あるいは「見つかったら『労働環境改革に注力していきます』と言えばいい」と考えた? あれだけ日本中から注目された裁判だったのに。怒りしか湧いてきません。

残業規制に不満を言う人たち
電通はこれまでも労基法違反を繰り返し、大切な命を奪ってきました。

・1991年、入社2年目の男性社員(当時24歳)が自宅で自殺。男性社員の1カ月あたりの残業時間は147時間を超え、上司からのパワハラもあり、遺族が会社に損害賠償請求を起こした。裁判は遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで結審

・2013年、当時30歳で病死した男性社員についても、長時間労働が原因の過労死として労災が認定された

 そして、15年の高橋まつりさん事件です。労働基準法が何のためにあるのか? 法律違反の責任は誰にあるのか? 分かっているのでしょうか。

 違法を繰り返すマインドの根っこには、人をコストとしてしか見ない非人格化思想がある。「別に死ななきゃいいだろ?」くらいにしか思っていない。そうとしか私には思えません。

 ただその一方で、残業規制が厳しくなったことに不満を言う人たちを、これまで何度も見てきました。

「夜中まで働きたい人もいるんだから、残業規制っておかしいよ」
「多様性っていいながら、国に残業時間を一律に決められるって納得できない」
「残業減らされると給料減る。やめてほしい」
などなど。

 私はその度に「どんなにやる気があっても、仕事が好きでも、長時間労働をして睡眠時間が削られると、脳疾患や心疾患を引き起こす。『月80時間以上残業しています』と胸を張る人は、たまたま生き残っているだけ。いつ死んでもおかしくない。明日死ぬかもしれませんよ!」と脅してきました。

 ……が、長時間労働推奨者たちには届きません。彼らは、仕事好き=かっこいい、忙しい人=仕事ができる人、と考えているので、脳とか心臓とか自分でも見たことのない自分の臓器が壊れるとか、全くイメージできない。

 過労死はヤバイと知覚できても、過労死とは突然死で、あるとき突然心臓や脳が壊れることだと知覚できないのです。

 そしておそらく……、電通のお偉い人たちも同様に、長時間労働が死に直結するというリアリティーが持てないのでしょう。本来、そういう人たちには従業員や部下のマネジメントを絶対させてはいけないのに、今回の「また違反」案件はトップの認識の甘さと言わざるを得ません。

 “再発”について山本社長はどう思っているのか? ぜひともご意見を伺いたいところです。

「過労死」という言葉が生まれた背景にある“悲しみ”
そもそも「過労死=KAROSHI」という言葉の裏には、不慮の死で大切な人を失った家族たちの心に鬱積(うっせき)する、悲しみが存在します。

 さかのぼること今から半世紀前の1970年代後半。中小企業の管理職層で心筋梗塞発症が急増しました。

 73年の第1次オイルショックで景気が冷え込み、国が助成金を出して雇用を守ろうとした政策が裏目に出た結果です。不景気の間は国からの助成金で社員を解雇しなかった企業が、景気回復で需要が急激に拡大した際、人を増やすのではなく、人数を変えず長時間労働させることで生産性を向上させようとしたのです。

 このときに生まれたのが「残業」という発想です。増え続ける残業に、心臓や脳が悲鳴を上げ、過労死する人を量産。医学の現場では同じころ、「過重労働による死」がいくつも報告されました。

 そこで、医師で旧国立公衆衛生院名誉教授の上畑鉄之丞氏(2017年11月9日没)が、遺族の無念の思いをなんとか研究課題として体系付けたいと考え、1978年に日本産業衛生学会で「過労死に関する研究 第1報 職種の異なる17ケースでの検討」を発表。過重な働き方による結末を「過労死」と呼んではどうかと提案したのです。

 新しい言葉は常に「解決すべき問題」が存在するときに生まれます。その言葉がよく当てはまる問題があちこちで起こり、何らかの共通ワードが求められるからです。そして、言葉が生まれることで、それまで放置されてきた問題が注目されるようになり、悲鳴を上げることができなかった人たちを救う大きなきっかけになります。

 「過労死」も例外ではありませんでした。

 上畑氏が学会発表した翌年から事例報告が相次ぎ、「過労死」という言葉は医師の世界から弁護士の世界に広まり、1988年6月、全国の弁護士・医師など職業病に詳しい専門家が中心となって「過労死110番」を設置。すると、電話が殺到したのです。ダイヤルを回した相談者の多くは、夫を突然亡くした妻。それをメディアが取り上げ「過労死」という言葉は、一般社会に広まりました。

 遺族たちはその後も連携を強め、日本社会から過労死を根絶するための活動を推進。その活動がやっと実を結んだのが、2014年に制定された「過労死等防止対策推進法」です。

「また違反」なんてありえない
くしくも、同法で報告が義務付けられた「過労死白書」が発表された2016年10月7日、大手広告代理店に勤務していた24歳(当時)の女性(高橋まつりさん)が15年12月に投身自殺したのは「直前に残業時間が大幅に増えたのが原因」とし、労災認定されたと報じられました。

 「過労死」という言葉が生まれてから40年。お嬢さんを「仕事に奪われた」遺族の無念が社会に知らされたのです。

 大切な命が奪われ、その理不尽な死に悲しむ遺族の思いを考えれば、「また違反」なんて事態はありえません。前述した通り、「長時間働きたくて仕方がない」社員を守るためにも、長時間労働は淘汰(とうた)しなきゃだし、それができない会社は、会社として存在させてはいけないのです。

 仕事を「人生を豊かにする最高の手段」にするためにも、「長時間労働は命を削る悪しき働き方」「休息をとったほうが効率が上がる」という常識をもっともっと社会に浸透させなきゃです。微力ですけど、私も地道に訴え続けていきますので、どうかお付き合いのほどを……。

(河合薫)

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