第29回 賃金不払残業の解消に向けての政府の取り組み

政府・労働省(現厚生労働省)が「サービス残業」という言葉を用いて、日本企業の年来の悪習である賃金不払残業の解消を表だって言い出したのは、過労死110番の開始から3年経った1991年のことです。この年の3月に、労働省が連合総合生活開発研究所に委託して前年秋に実施した「所定外労働時間の削減に関する調査」の報告書が発表され、公的な調査ではおそらくはじめてサービス残業が取り上げられました。また8月には「所定外労働削減要綱」が発表され、「?所定外労働時間を、当面(今後3年間程度)、毎年10%ずつ削減する、?サービス残業はなくす、?休日労働はなくす」、という3つの目標が示されました。

しかし、1990年代には賃金不払残業の解消が言われながら、労働行政の監督指導においては見るべき変化はありませんでした。状況が変わり始めたのは、2000年11月に央労働基準審議会の建議「労働時間短縮のための対策について」が出たころからです。

この建議をうけて、厚生労働省は2001年4月に労働時間適正把握基準を策定・公表しました。さらにサービス残業解消の具体的指針として、「賃金不払残業総合対策要綱」と「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」を策定し、2003年5月に公表しました。これは、賃金不払残業の解消に向けて全国の労働局・労働基準監督署が企業に対する指導・是正を強化する画期となった文書です。

この「要綱」と「指針」でとくに注目されるのは、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署が一体となって労働時間適正把握基準の周知徹底を行うとともに、的確な監督指導を実施し、賃金不払残業の是正事例を取りまとめて公表することになった点です。その結果、労働基準監督署による賃金不払残業の是正は、「要綱」発出後の2003年4月から2008年3月までの5年間で、企業総数7552社、対象労働者総数89万3826人、総金額1197億4026万円に達しました。これは「要綱」発出前の2年間(2001年4月から2003年3月)と比べて1年当たりの金額では約3倍の増加です。

こうした労働行政の変化に関して無視できない背景の一つは、過労死弁護団を中心とした過労死110番の取り組みです。これについては次回に述べます。もう一つの背景は、労働基準法の申告制度を利用した労働者の内部告発の増大です。2002年には、全国の労働基準監督署へ労働者や家族からなされたサービス残業などの賃金の不払いに関する申告が初めて3万件を超えて、過去最多となりました(「毎日新聞」2003年7月28日、夕刊)。最近では申告件数は年間4万件を超えています。

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