日経平均が9000円を割り込んだ後も株価の下落が続いています。今回の株安は円高の進行との関連が大きな問題となっていることが特徴です。円高は2008年の世界恐慌の影響で生産が大きく落ち込んだ製造業に新たな打撃を与えるという理由で、経済界は政府に円高対策と株価対策の実施を求めています。
これに応えて検討中と報じられている政府の緊急経済対策案の看板は、「デフレ脱却」です。日銀に対する追加的な金融緩和要請、新卒者の就職支援策などの雇用対策、住宅エコ制度の延長なども挙がっていますが、それらがデフレ対策にどのような関連や効果があるのかは不明です。
物価下落が企業収益の悪化をもたらし、それがさらに賃金の下落をとおして物価の下落を招くという悪循環を「デフレ・スパイラル」といいます。現在の日本で起きているのもそうしたデフレです。政府がデフレ脱却を看板に掲げることは間違っていませんが、そのために打ち出している政策は、肝心の賃金問題に触れていない点で的外れと言わざるをえません。
本ブログの「情報資料室」に転載した富士通総研HPのコラムで根津利三郎氏が説いているように、デフレの本当の原因は賃金の下落にあります。根津氏によれば「賃金が下がれば、勤労者は購買力を失う。そのため企業は価格を下げて販売量を維持しようとする。価格が下がれば生産性の向上がない限りコストを下げるため賃金のカットが避けられない。こうしてデフレと賃金下落のスパイラルが続いているのが日本の現状だ」というわけです。
日本経済では景気拡大がつづいた2002年から2007年にかけても、賃金は非正規労働者の急増もあって、横這いというより下落を続け、2008年秋から2009年にかけての恐慌では、残業手当と賞与を中心に前例のない賃金カットがありました。そこからみると、08−09の不況を深刻な恐慌にした原因は、賃金の下落にともなう勤労所得の減少にあると二重の意味において言えます。
第1は、賃金の削減がコストの削減を可能にし、日本企業の輸出競争力を高め、円高を誘発するとともに、日本経済の外需依存体質を強め、日本経済を世界貿易や為替相場の変動の影響を過度に受けやすい構造にしてきたことです。為替相場は短期的には投機的要因もありますが、長期的にみれば、自動車や電気器機など日本の主力輸出商品の価格で決まる傾向があると言われています。そう考えれば、それらの産業における人員削減や賃金カットや雇用の非正規化でコストダウンが進むほど、円高が進むことになります。
第2は、賃金の下落は、最大の内需である個人消費を縮小させ、商品の全般的な売れ行き不振を招き、日本経済の足腰を弱くしていることです。企業はデフレで企業収益が下がれば賃金を切り下げようとしますが、それは逆にデフレを加速させ、デフレ・スパイラルの悪循環を招くことになります。
先に引用した富士通総研HPのコラムで、根津氏は「わが国が長期のデフレを克服するためには、他の先進国と同様に賃金の緩やかな上昇を安定的に維持していくことが肝要である」と述べています。本講座の第27回(2010年1月29日)で「賃金の引き上げこそデフレ脱却の決め手」と書いた筆者としては我が意を得たりの思いです。