第172回 大阪市の関西電力に対する株主提案について

関西電力の筆頭株主である大阪市が橋下徹市長のもとで同社に原発全廃を求めて行う株主提案が注目されています。本日の朝日新聞や読売新聞の関連記事には株主オンブズマンの代表として私のコメントが出ているという事情もありますので、この件に関する私の考えを表明しておきたいと思います。

私は、「教育とは2万%命令です」と言って憚らない橋下氏の政治姿勢については、彼が府知事であったときから疑問を感じ批判してきました。大阪市職員に対する「労使関係の正常化」に名を借りた思想調査と思想統制についても、容認できません。

しかし、今回の関西電力に対する株主提案については、脱原発の世論を国政進出の追い風に利用とする「橋下・維新の会」の政治的意図があるにせよ、よく練られていて筋が通っています。ただし、橋下氏と維新の会の財界よりの新自由主義的な政治姿勢との整合性は明確でなく、今後、財界からの反撃が強まると、腰砕けの骨抜きになっていく懸念があります。

4月9日に開催された第4回大阪府市エネルギー戦略会議に提出された資料によると株主提案の議案骨子は次の8つからなっています(3月18日の第3回会議に提出されたものと同一)。

情報開示による経営の透明性の確保
取締役は10名以内にし、国等からの再就職は受け入れない
取締役報酬の個別開示
脱原発と安全性の確保
再生可能エネルギーの大規模導入
発電部門もしくは送配電部門の売却(発送電分離)
電力需要抑制のためのスマートメーターの活用

これらの議案はいずれも定款の変更に絡めて提案しなければならないので、その可決成立のためには議決権行使株数の3分の2以上の賛成が必要です。2011年9月末現在の関西電力の株主構成は、自治体12.9%(大阪市8.9%)、金融機関29.1%、一般企業5.2%、外国人13.3%、個人33.6%、自己株式4.8%、金融商品取引業者1.1%となっています。この構成で3分の2の賛成を得ることはきわめて困難です。

金融機関や事業法人や外国人株主(海外機関投資家)は、たいてい電力の安定供給を重視し、高配当・高株価を求める立場から、脱原発を基調とする株主提案に反対するものと考えられます。個人株主は賛否を表明しない人が多く、しかも白紙投票は株主提案には「反対」とカウントされることになっているので、個人株主の半数以上が賛成に回るとは考えられません。東日本大震災と原発事故後の昨年6月総会では、関電における自然エネルギー発電への転換を求める株主提案の賛成率は全投票の3.9%でした。今年は、筆頭株主である大阪市の株主提案であるうえに、異常なほどの橋下人気もあるので、賛成率は、高い場合、大阪市と他の自治体が約10%+個人株主が約10%+その他の株主が10%で、およそ30%になるものと予想されます。これはもちろん、株主数ではなく株数による試算です。

賛成率は議案によっても異なります。経営の透明性や取締役の定員に関する議案は、比較的賛成が得られやすいと考えられます。しかし、焦点となる賛成率は、脱原発の推進や再生可能エネルギー導入の議案にどれくらいの支持があるかで測られるべきです。定款変更の可決に必要な3分の2の賛成に及ばなくても、脱原発の議案に仮に4割以上の賛成が集まるなら、株主多数の声として、関電取締役会も何らかの対応を迫られるでしょう。
 

株主提案制度の仕組みについては第92回をご参照ください。

昨年の電力各社への株主提案結果については第93回をご参照ください。

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