第239回 でたらめな解雇特区論議で労働者の働き方を決められてはたまりません。

安部政権が進めている雇用改革は出たり引っ込んだり、やらないと言ったりやると言ったり、メチャメチャです。

その最悪の例が解雇特区案の顛末です。各紙は、安部政権が今日(10月18日)、首相胆入りの「産業競争力会議」の目玉の一つである「国家戦略特区」における規制緩和メニューを決めたと報じています。それによれば原案にあった解雇特区と批判された文言は消えています。また、第一次安倍内閣で世論の総すかんを食って潰れたホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制の適用除外)の特区導入案も見送られました。

しかし、他方で、政府が過去の労働裁判の判例から、解雇が認められるケースなどを企業に示すとともに、特区内に、(労働者向けではなく)企業向けの相談窓口を設けるとしています。また特区論議にかこつけて、最大5年で無期雇用に転換するとなっている非正規労働者の雇用期間について、全国一律で10年に延長できるようにすることを検討するとしています。

この支離滅裂ぶりは、そもそも厚労省と国会の厚生労働委員会で検討すべき雇用政策を、産業競争力会議という政府の成長戦略を推進するために設けられた諮問会議で議論することから発しています。

同会議は首相をはじめとする8人の政府委員と10人の民間委員から構成されています。雇用改革が大きな柱の一つでありながら、政府委員は首相と官房長官のほかは財務、金融、産業・経済、科学技術、規制改革関係の大臣ばかりで、厚生労働大臣は入っていません。民間委員は10人中8人は民間企業のトップです。学識経験者と言えるのは竹中平蔵氏(慶應大学)と橋本和仁氏(東京大学)の2人だけですが、2人とも雇用労働関係の素人です。なお、竹中氏はパソナ取締役会長ですから、人材派遣を営む民間企業のトップでもあります。

産業競争力会議は英語では“Council for Industrial Competitiveness”と表記できます。“industrial”は「産業の」という意味と「労働の」という意味を持っており、“industrial action”といえば労働組合のストライキを意味します。しかし、産業競争力会議には労働代表は1名もいません。このことは安倍内閣の雇用労働改革が原点から労働者不在であることの表れです。

問題の解雇特区案は、産業競争会議の下に置かれた国家戦略特区WG(ワーキンググループ)によって議論されました。このWGは5人のメンバー中、3人は企業トップで、2人は雇用労働問題の素人の学者です。国家戦略特区は雇用のほかに、医療、教育、都市インフラ、農業などの領域がありますが、目玉の雇用分野に通じた人は誰もおらず、もちろん労働者代表も入っていません。

同WGは4日にわたり27人の有識者(団体を含む)からヒアリングを行っていますが、特区の雇用分野に関するヒアリングでは、専門家と言えるのは規制緩和推進論者の労働法学者である大内伸哉氏だけです。批判派の労働法学者は含まれていません。社会政策の専門家にいたっては、推進派も批判派も出番はありませんでした。雇用問題を議論しながら、労働者保護のための社会政策の見地はもともとないのです。

すべては大目的である「世界でいちばんビジネスのしやすい環境をつくる」ための雇用改革であり、国家戦略特区を規制緩和の突破口とするための解雇特区論議であったのですから、議論が支離滅裂になるのも当然です。法制度との整合性や、雇用労働の政策形成のあり方を詰めて考えた痕跡はありません。労働者代表や厚労省関係者がいないところで、企業のトップが会社経営によかれとばかり思いつきを言う。それを竹中平蔵氏あたりが物知り顔に煽り立てる。そういう光景が浮かびます。

こういうメチャメチャな政策論議で国の針路や労働者の働き方を決められてはたまりません。

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