本日の夕刊各紙は、最低賃金(時給)の2012年度の引き上げ額について、中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会が25日、全国平均で7円という目安を決めたと伝えています。厚労省の試算では、最低賃金の全国平均は現在の737円から7円増の744円に上がることになります。
最低賃金は労働市場の相場で決まる価格ではなく、政治、したがって政府が政策で決める価格です。ということは最低賃金を昨年度同様にわずか7円の引き上げに抑えることが現在の民主党の政策だといえます。
よく知られているように、民主党は2009年の総選挙で、最低賃金の原則を「労働者とその家族を支える生活費」とし、「全国平均1000円を目指す」と公約していました。しかし、政権交代後、鳩山政権は、この公約をほごにして、「2020年までに全国平均で時給1000円を目指す」(新成長戦略)という看板に書き換えました。
前回総選挙前、2009年度の全国平均は713円でしたから、2012年度が744円なら、この3年間の引き上げはわずか31円にとどまります。来年度以降も過去3年度と同様に1年平均約10円しか上げないとすると、時給1000円に達するのは2020年どころか、26年後の2038年になります。過去2年度並みの1年7円の引き上げで計算すれば、1000円になるのは、37年後の2049年という気の遠くなる先です。
最低賃金が低く据え置かれると短時間労働者(パートやアルバイト)の時給が抑えるられだけでなく、正社員の賃金も低く抑えられる心配があります。リクナビなどの2012年度の採用情報によると、日本郵便局株式会社の短大・高専・専門卒の初任給は139,600〜168,220円とされています。これは地域別最低賃金が異なるのに応じて、初任給も地域別に異なる?ことを意味しているのかもしれません。もし東京で13万9600円とすれば、現行の東京の最低賃金(837円×1ヵ月の平均所定労働時間168時間=14万616円)さえ下回る賃金です。
本講座の第49回でも述べましたが、2007年12月の最低賃金法の改正(2008年7月施行)によって、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことが明確になりました。現在、地域別最低賃金で働いた場合の収入が生活保護の支給水準を下回る「逆転」が11都道府県で発生しています。このたびの引き上げでは逆転は9都府県で解消することになるとされていますが、しかし、ただ解消すればよいというものではありません。
12年度の全国平均が744円に上がるとしても、年間1800時間働いても134万円、2000時間でも約150万円で、年収200万円には遠く及びません。これでは地域差を考慮したとしてもワーキングプアと言わざるを得ない低所得であって、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことはとうていできません。
厚労省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によれば、生活をまかなう主な収入源が「自分自身の収入」である労働者の割合は、派遣労働者の71%、パートタイム労働者の34%に上っています。このような時代にフルタイムで働いても年収150万円そこそこか、それにも満たない低賃金が存在することは、政治の不在を物語るものです。
こういう働く者を愚弄する政治を行って恥じない政党は、選挙で痛い目にあわせるしかありません。