雑誌『世界』の本年9月号に「日本経団連は何に直面しているか」という小論を寄稿しました。そこでも書いたことですが、経団連による政治献金の斡旋がいよいよ再開されようとしています。
経団連が斡旋してきた企業の政治献金については、かねてからカネによって政党と政策を買収するものだという批判が繰り返されてきました。経団連としても、これを無視できず、政党助成法の成立を前にした1993年に「企業献金に関する考え方」という文書を発表しています。それは、政治資金について、公的助成や個人献金の定着を待って廃止を含めて見直すとし、さしあたり1994年以降は、政治献金の斡旋は行わず、企業や業界団体の自主的判断に委ねるというものでした。
このときの見直しは、リクルート事件(1988年)、東京佐川急便事件(1992年)、ゼネコン事件(1993年)などで「企業の政治献金は政治腐敗の温床」という批判が高まってきたことに応えたものでした。その後、1995年に政党助成法が施行され、国の財政から国民1人当たり250円、総額300億円を超える政党助成金が共産党を除く各政党に交付されるようになりました(2013年は約320億円)。
ところが、経団連は、2003年になると、政治献金の実質的な斡旋を10年ぶりに再開すると発表しました。その方法は、主要政党の政策を経団連の「優先政策事項」に基づいて評価し、献金額の目標を定め、会員企業に献金を促すというものでした。
経団連が2008年9月に発表した経団連会員企業の07年の政治献金額は、29億9000万円で、そのうち97%は自民党に献金されていました。個別企業ではトヨタ自動車の6400万円がトップでした。
そうこうしているうちに、2009年7月の総選挙で民主党政権が誕生しました。その結果、2010年には経団連は政党に対する政策評価も中止しました。ところが自民党が2012年末の総選挙で政権に復帰し、2013年夏の参院選でも圧勝すると、一転して経団連は会員企業に政治献金を促そうと政党の政策評価を再開しました。
そして今回は、政策評価にとどまらず、経団連が政治献金の斡旋に再び乗り出すというのです。経団連は斡旋ではなく協力要請と説明しているようですが、政治献金について、企業と自民党(窓口としては自民党への政治献金を取りまとめる国民政治協会)の間をとりもつのですから、斡旋であることにはかわりありません。
経団連がこの時期に政治献金の斡旋を再開しようというのはほかでもありません。第二次安倍政権の誕生で、経団連が求めてきた法人税率引き下げと(企業減税)と消費税率引き上げ(個人増税)の「一体改革」を実現する好機が到来したので、それを確実にするために自民党の鼻先に人参ならぬ札束をぶら下げようというのわけです。
消費税率の引き下げについては、社会保障の充実のための財源確保が目的だと言われることがあります。しかし、経団連が唱えてきた消費税率の引き上げは、法人税率の大幅な引き下げとセットになっている点で、まさしく法人税率の引き下げのための財源確保が目的です。経団連や政府は、法人税税率を下げれば、企業の利益が増え、設備投資意欲が高まり、雇用が増加し、賃金が上がると言います。けれども、過去の事実からみれば、企業の税引き後の利益が増えても、雇用や賃金には回らず、これまで以上に内部留保が積み上げられ、そのうえ株主への配当や役員報酬が増えるのが落ちです。
経団連の政治献金斡旋再開の狙いは、企業減税の実現だけにとどまりません。武器輸出三原則の見直しも、集団的自衛権の容認のための解釈改憲も、原発再稼働も、働き方/働かせ方のいっそうの規制緩和も、政治献金によって財界と政界の緊密な関係を築くことなしには実現しえないと考えられてきましたし、今も考えられています。
しかし、その先に待ち受けるのは、企業が太って労働者がやせ細る日本への道であり、軍産複合体が栄える軍事国家の構築への道でしかありません。その意味でアベノミクスのミクスは軍産複合体制(military industrial complex system)のmicsです。