□労働委員会が共同使用者としてのアマゾンの責任認定
ロサンゼルスの連邦・全国労働関係委員会(NLRB)支局が、8月22日、労働組合(チームスターズ・ユニオン)※がアマゾンに対して起こした不当労働行為の申立について、組合の主張を認める決定を下しました。
※ チームスターズは、1903年に設立された伝統ある労組で、現在「国際チームスターズ同胞団(International Brotherhood of Teamsters)」は、米国、カナダ、プエルトリコの130万人の労働者を代表しています。
アマゾン社は、顧客への配達の最終段階(ラストマイル)を担当する運転手を直接雇用せず、毎日何百万個もの顧客の荷物を配達する何千もの「第三者企業」に依存しています。現在、全米では、27万5,000人以上の運転手が、デリバリー・サービス・パートナー(DSP)と呼ばれるこれらの第三者企業(以下「DSP」と略)に雇用されアマゾンの配達に従事しています。
チームスターズは、昨年(2023年)、カリフォルニア州パームデールにあるバトル・テスト・ストラテジーズというDSPで働く数十人の運転手を組合に組織化したと発表しました。そして、同労組によれば、アマゾンを相手に団体交渉を求めましたが、アマゾンは、これを拒否し、多様な不当労働行為を行ったということです。
ロサンゼルスNLRB地方支局の認定よれば、アマゾンは、①パームデール施設において、労働者がチームスターズとの組合結成を決定したことを違法に承認せず、②雇用条件やDSPとの契約解除決定の影響についてチームスターズとの交渉を拒否し、③従業員を解雇で脅し、④違法な「囚われた聴衆集会(captive audience meetings)」を開催し、⑤警備員で従業員を威嚇したこと、その他⑥新たに組合に加入した労働者グループに対する違法な報復など、甚だしく多数の不当労働行為を行ったということです。※
※Teamster Union 、APnews )
□アマゾンの「共同使用者(joint employer)」性
アマゾンは、労働組合を作らせないという経営方針を堅持してきました。とくに、アメリカでは、数多くの労働者が働く大型倉庫での組織化の試みがありましたが、アマゾンは、多様で執拗な組合潰しを行い、組合の組織化に対抗してきました。しかし、ニューヨークのステタン島で初めて組合が組織化に成功しました。
(詳しくは、エッセイ: Amazonでの労働組合結成のニュースを聞いて(上) 、(中) 、 (下))
しかし、アマゾンは、配達部門は、倉庫とは違い、直接雇用でなく下請契約によってDSPに委託する形をとってきました。アマゾンは、アマゾン・ブランドの貨物自動車(バン)で消費者のドアまで荷物を運ぶ運転手は、第三者の請負業者(DSP)のために働いていることを強調し、アマゾンは使用者ではないので、組合潰しの疑いに対して責任を負う必要がなく、従業員でないDSP運転手の労働組合との団体交渉に応ずる必要もないと主張してきました。
アマゾンは、契約の形式などから、共同使用者性を否定していますが、申立た労組に加入する運転手は、「私たちはアマゾンのユニフォームを着用し、アマゾンのバンを運転し、アマゾンは私たちの1日のすべての時間をコントロールしている」と話します。
そして、2021年のブルームバーグの報道によれば、DSPの運転手について、アマゾンが「清潔な歯、顔/耳、爪、髪」、会社から要請があった場合の薬物検査を義務付けるなど、広範な規則を課している。また、「わいせつな」ソーシャルメディアへの投稿も禁止されている。また、DSPは、アマゾンの方針に従うことが契約書で義務付けられており、それは、アマゾンの裁量で一方的に変更できるとされていたということです。(ブルームバー-グ2024年8月23日 )※
※この「共同使用者」か否かについては、民主党政権と、共和党政権の交代によって委員の構成が変わるので、NLRBの判断は大きく揺らいできました。最近も、フランチャイズ関連の事件で、NLRBの判定に不服な使用者側が連邦裁判所に訴えてNLRBの判断を狭める動きがありました(詳しくは、JIL「共同雇用」訴訟の控訴を取り下げ―全国労働関係委員会」 参照)。
□アマゾンを取り巻く労組組織化の動き
アマゾンのビジネスモデル・経営方針は、世界各国でも共通していますが、ブラックフライデーにあわせ、30か国以上でストライキと抗議行動 ― Make Amazon Payの新たな波が生じています。
アメリカ国内でも、アマゾンの「反労働者」「反労組」の経営方針は、労働組合や労働団体の抵抗によって大きく揺らいでいます。2022年、初めてニューヨークの大型倉庫で組合組織化に成功したときの労組は、全国組織に加入しない独立組合(ALU)でした。しかし、2024年6月、このアマゾン労働組合の5,500人以上の組合員が、チームスターズとの提携を98.3%という圧倒的な支持率で決議しました。
(レイバーネット日本「アマゾン労働組合、チームスターズ労組加盟を決定 2024年6月18日」)
チームスターズによれば、ここ数週間、カリフォルニア州サンバーナーディーノのKSBDアマゾン航空ハブ施設やシンシナティ/ノーザンケンタッキー国際空港のKCVGアマゾン航空ハブ施設など、アマゾンの他の倉庫でも労働者がストライキに突入している、とのことです。
NLRBの共同使用者決定は、アマゾンがDSPビジネスモデルを通じて運転手の労働と労働条件を広範囲に管理し、アマゾンを運転手の使用者であることを明確にしました。この決定は、全米で約28万人のDSP運転手の組織化、さらには、その労働条件改善に向けて大きな影響を与えることは確実です。
日本でもアマゾンのビジネスモデルは共通していますので、今回の決定の意義を積極的に受け止めることが必要だと思います。