政府税制調査会は、12月30日、消費税率を現行の5%から「2014年4月に8%、15年10月に10%」に引き上げる案をまとめました。野田政権はこれを政府案として新年1月上旬に正式決定し、消費増税法案の年度内提出をめざすといいます。
これを報じた12月31日の「朝日」は編集委員の署名入りの解説記事で税調案に賛成し、「国家破綻」(正しくは「国家破産」)回避のための消費増税の即刻実施を迫っています。同日の朝日の社説は「豹変して進むしかない」と野田政権を励ましてさえいます。誤解のないようにいえば、消費増税不可避論を唱えている点では、「日経」やその他の全国紙も大差はありません。
私はこの増税案に次の理由で反対します。
1)公約無視もはなはだしい
2009年総選挙で民主党が掲げた政権公約は「総崩れ」状態です。それでいて、公約に上げていなかった消費税増税に「不退転の決意」で取り組むことは公約無視もはなはだしい、といわなければなりません。働き方に関しては、民主党は、公約であった最低賃金の大幅引き上げと派遣法抜本改正については、棚上げというより反故にしています。その一方、「コンクリートから人へ」のスローガンとは正反対に、八ツ場ダムの建設再開を承認し、整備新幹線の延伸着工の予算増に踏み切っています。
2)1997年の消費税率引き上げは国税収入を減少させた
1997年4月からの消費税率の引き上げでは、特別減税の打ち切りや、医療保険制度の改革の影響と合わせて、総額9兆円に達する国民負担の増加がありました。このときの消費増税は、バブル崩壊後の不良債権処理に絡んで、深刻な金融危機と消費不況をもたらし、結果的には、消費税収入は増えたものの、法人税も個人所得税も大きく落ち込んで、国税収入はトータルでは大幅な減少になりました。決算ベースでみると、1997年度に54兆円あった税収は2011年度には41兆円になっています。
3)賃金低下に歯止めをかけず消費増税をすると暮らしは破綻
内閣府の「国民経済計算」によると、雇用者報酬(年間の経済活動から発生した付加価値のうちの雇用者への分配分)は、1997年度の279兆円から2010年度の244兆円に、約25兆円も減少しています。そのわけはこの間に労働者の賃金が大きく下がったからにほかなりません。2009年度はリーマンショックを契機とする製造業大不況の影響で、単年度で雇用者報酬は約11兆円も落ち込んでいます。こうした賃金低下に歯止めをかけずに消費増税をすると、1997年の場合以上に、経済状態が悪化することは眼に見えています。
4)金持ち優遇税制を放置したままの消費増税であってはならない
今回の税制改革案では、年額1800万円を超える課税所得に一律適用されている40%という現行の最高税率を、5000万円超の所得者に限り、45%に引き上げるといわれています。この対象になるのは3万人あまりにすぎず、全納税者の0.1%にとどまります。そのうえ最高税率を45%に上げたといっても、所得税率が累進構造を残していた1984年の最高税率70%とは比べるべくもありません。金持ちに有利な証券優遇税制にしても、現行の10%という特例税率を2014年からもとの20%に戻すというだけで、それ以上の見直しは回避しています。
5)法人税率引き下げと一体の消費税率引き上げは最大の愚策
日本経団連は、近年、一貫して法人税率の引き下げと消費税率の引き上げをセットで要求してきました。今回の税制改革案は、法人税について、実効税率を5%引き下げる点で、財界の要求にそったものになっています。東日本大震災にともなう復興増税では、法人税率を12年度から10%上乗せするとしています。とはいえ、これは3年間の臨時措置であるのに対し、復興増税による個人所得税の2.1%の上乗せは、25年間(高齢者にとっては永久に)続くことになっています。いずれにせよ、消費税率を上げる一方で法人税率を下げたのでは、景気悪化による法人税の落ち込みの可能性を別にしても、税収総額の増加は見込めません。大企業は不況下でも内部留保(利潤の社内への溜め込み)を増やし続けてきましたが、法人税率を引き下げれば内部留保はこれまで以上に増えるでしょう。
国の借金である国債残高は2011年度末で668兆円になります。地方を合わせると日本の累積債務残高は約1000兆円に上ると見込まれます。国債だけで国の一般会計税収の16年分に相当します。一般会計歳出の約4分の1が国債の償還と利払いに充当される財政はまさしく異常であって、所得税、法人税、消費税の区別を問わなければ、増税が避けられないことは明らかです。しかし、そのことは今回まとまった消費増税案を支持する理由にはなりません。
私は、消費増税が是認されるには、賃下げによるデフレ・スパイラルに歯止めを掛けることと、景気の動向に照らしてタイミングを選ぶことを前提に、政府・与党が総選挙で各種増税の選択肢を示して有権者の審判を仰ぎ、承認を得る必要があると考えます。その場合には、国会論戦でも、防衛費を含む政府予算の抜本的見直しを行い、増税の国民生活や経済活動全般への影響を見極めるとともに、新たな税収の使途や将来の税収の見通しなどを、可能な限り広く示して議論を尽くすことが求められます。
これを間違えば、国家財政も国民の暮らしも立ち行かなくなるでしょう。
働き方ネット大阪会長 森岡孝二