【朝日新聞】ライフ > 医療・健康 > 患者を生きる 2012.9.8
うつ病の症状が落ち着いてきた滋賀県の女性(44)は、幼稚園教諭への復帰を目指し、復職に必要な適応力を回復させるため、京都にある復職トレーニング専門デイケア「バックアップセンター・きょうと」に2009年11月から通い始めた。
初めて参加した「コミュニケーション講座」。うつ病などで休職している20〜50代のメンバー約20人が半分に分かれ、議論することになった。テーマは「復職後、残業禁止の診断書が出ている状態で、同僚たちが忙しそうにしていても先に帰宅するか」。
意見を求められ、迷わず「自分だけ先に帰るなんて、言えるわけがない」と発言した。すると「それが原因で病気になったんだよ」「周りは意外に気にしてないから、帰ったらいいんだよ」と、メンバーから口々に言われた。とても新鮮に響いた。
ある日、他の女性メンバーと、ささいなことで口論になった。「もう話したくない!」と相手に言い、そのまま帰宅してしまった。 「以前、職場でも同じようなことがありませんでしたか」。後日、面談した作業療法士、松田匡弘(まつだまさひろ)さん(28)の問いかけに、はっとした。確かに、小さな怒りをいくつもため込んでは、爆発させたことがある。
「職場に戻った時の練習だと思って、感情をコントロールするようにしてみます」。松田さんは、静かにうなずいた。
小学1年の長男が熱を出した朝。「この子を残してセンターに行くべきか」と迷っていると、長男は「ママがいなくても大丈夫だよ」と、送り出してくれた。子どもたちの支えも、大きな力になった。
センターのプログラムは週5日、午前9時の朝礼から始まる。日程に合わせて、前夜に家事をこなすなど、生活のリズムが戻り始めた。ヨガの時間には、縮こまっていた体が少しずつほぐれ、気分も軽やかになっていった。
園芸部の活動で、施設の中庭に花壇を作ってチューリップの球根を植えた。真冬の作業で手が凍えたが、土いじりをしていると気持ちが和む。水やりをしながら、心の中でささやいた。「あなたのように、春になったら私も花を咲かせるからね」