東京新聞 2014年12月12日
「月給制にして」などの紙を手に、待遇面の改善を正社員側に訴えるパートの女性たち(左側)=東京都内で(写真省略)
貧富の差が激しい「格差社会」を実感する暮らしが続き、抜け出せずにいる。私たちは今の苦しさや将来への不安感からやみくもに生活防衛へ走らされ、分断に追い込まれていないか。何がこの格差を生み出したのか。衆院選の投開票日を前に、労働と教育の現場から考える。
「えーっ、正規になるのに十年以上かかるの?」。今月初め、東京都内の事務所の一室。正社員の男性の言葉に、パートの女性三人が一斉に絶句した。三人はスーパーなどを全国展開する企業で派遣社員として働き三年前に直接雇用。この日は労働組合に待遇面の要求を訴えた。
「時給制なので休みが多いと苦しい。月給制に」「ボーナスや退職金の支給を」。不満をぶつける三人への返答は「経営側に訴えているが厳しい」だった。ましてや正規登用へのハードルはさらに高かった。
この企業では同じ職場に正社員、パート、派遣社員が混在する。七割を占める正社員の平均年収は六百万円超。パートや派遣など非正規は三百万円弱で倍以上の開きがある。派遣社員には交通費も出ない。
非正規の人は納得できない。十年以上働くパートの女性(46)はチラシ広告の画像作成のリーダー役。「正規がやるべき仕事をしているのに」と不満を漏らす。デザインを担当する派遣社員の女性(35)は「正社員ができない特殊な仕事もやっている」と訴える。
パートと派遣だけでチームの仕事をこなす。商品開発の会議にも参加し、夜遅くまで働く日も多い。正社員と変わらぬ責任を負っているという自負がある。
「同一労働同一賃金」。国際労働機関(ILO)が実現を求める原則だ。性別や雇用形態を理由に賃金、待遇で差をつけることを禁じ、欧州諸国で採り入れている。日本でも二〇〇八年施行のパートタイム労働法で、正社員と一定の条件を満たしたパートを同等に扱うよう求める。ただ、「正社員と同様に異動がある」など条件が厳しく、ほとんど空文化している。
この企業は「責任範囲の違い」を差の理由にしている。非正規社員の訴えは正社員の目にどう映るのか。
二人と同じ部署で働く正社員の男性(35)は「トラブル処理は正社員が担う。責任に一定の差はある」と言い、別の部署の中堅・若手の女性らは「正社員は地方転勤の可能性がある」と話す。一方で「パートの方は同じ部署に長くいてスキルがある」「賃金が二倍も違うのはひどすぎる」とも。
正社員らも共に働く非正規社員の給与底上げを願う。しかし経営側は見直さず正社員の仕事の一部を非正規に移そうともしている。
「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げ、安倍政権はアベノミクスの矢を放った。さらに、派遣労働者をより広く使えるよう法律を改正する動きもある。
一方で同一労働同一賃金の議論は放置されたまま。正社員を、賃金が安く、契約を打ち切りやすい非正規に置き換える動きが進む。
「ここを辞めたら、非正規の仕事しかないと思うと不安。企業だけではなく、人々の暮らしをもっと見てほしい」。正社員の女性(29)の言葉は、パートや派遣社員の思いを代弁していた。(沢田敦)