毎日新聞 2013年11月08日
特定秘密保護法案が7日、衆院で審議入りした。安倍晋三首相は本会議で、情報漏えいの脅威が高まる中、国家安全保障会議(日本版NSC)を効率的に運営するためには、秘密保全体制の整備が不可欠だとして、法案の意義を繰り返し強調した。
だが、この法案は、憲法の基本原理である国民主権や基本的人権を侵害する恐れがある。憲法で国権の最高機関と位置づけられた国会が、「特定秘密」の指定・更新を一手に行う行政をチェックできない。訴追された国民が適正な刑事手続きを受けられない可能性も残る。憲法で保障された「表現の自由」に支えられる国民の「知る権利」も損なわれる。
7日の審議でも根本的な法案への疑問に明快な答弁はなかった。法案には反対だ。重ねて廃案を求める。
国の安全保障上欠かせない情報はあり、日米同盟に基づく高度な機密は保全すべきだろう。そのために、2001年に自衛隊法が改正され、防衛秘密の漏えいに対し最高懲役5年が科せられた。また、米国から供与された装備品情報の漏えいは最高懲役10年だ。防衛秘密が現行法の下で基本的に守られている中で、新たな立法の必要性はないと考える。
もちろん、防衛以外にも秘密とすべき情報はあるだろう。だが、この法案では、防衛のほか、外交、スパイ防止、テロ防止の各事項について、行政の裁量で際限なく特定秘密が指定できる。さらに、その漏えいだけでなく、取得行為にも厳罰を科す。あまりにも乱暴な規定だ。
行政に不都合な情報が特定秘密に指定される恐れはないのか。安倍首相は、別表での細かい規定や、指定の基準を作る際に有識者に意見を聞くことを挙げ「重層的な仕組みになっている」と述べたが、全く不十分だ。国会を含む第三者が個々の指定の妥当性をチェックする仕組みは法案にない。民主党は情報公開法の改正で、裁判所にその役割を担わせる考えだが、実効性が伴わない可能性が大きい。
7日の審議で、森雅子担当相は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの通商交渉や原発事故対応などの情報は、特定秘密の対象にならないと答弁した。ただし、原発でも警備の実施状況は、特定秘密に該当すると述べた。行政任せの根本が変わらなければ線引きは意味がない。
法案概要が公表されたのは9月である。今から議論を始めてこの国会で成立を図ろうとすること自体、土台無理な話だ。まずは徹底審議で問題点を明らかにしてほしい。