北海道新聞社説: 最低賃金目安 まだ低い。上げる知恵を

北海道新聞 2014/07/31

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が、2014年度の地域別最低賃金(時給)の目安を決めた。

 全国平均で16円引き上げて780円。北海道は14円引き上げて748円だ。この通りに決まれば、最低賃金が生活保護を下回っていた道内を含む5都道県すべてで、「逆転現象」が解消する。

 道内の額を正式決定する審議会の議論が8月1日から始まる。労使双方には、働く人たちの暮らしの向上につながるよう、さらなる引き上げに知恵を絞ってほしい。

 最低賃金額は、全体のおよそ4割を占める非正規労働者らの収入に直結する。

 今春闘でも経営者側に賃上げを求めた安倍晋三政権である。全国平均では、過去10年間で最高水準となった今回の結論は、狙い通りだろう。

 しかし、賃金水準はまだまだ低い。

 今年5月の実質賃金指数は、消費税増税や物価上昇の影響もあって、1年前より3・8%目減りした。目安通りの賃金上昇があっても、満足感は到底得られまい。

 全国平均より低い道内ではより深刻だ。法定労働時間の週40時間働いても、年収は約156万円(月収13万円弱)だ。ワーキングプアの分岐とされる年収200万円に遠く及ばない。

 生活保護との逆転が解消されるからと言っても、それは当然であり、スタート台に立ったにすぎない。

 そもそも、日本の最低賃金は先進各国の中でも低迷している。円換算で、欧州主要国がおおむね千円以上であることと比べても、その差は歴然だ。

 非正規雇用やパートでは、最低賃金が給与のベースになる。賃金の低さが近年の貧困率アップの一因にもなっている。「負の連鎖」を断ち切らねばならない。

 政府は、経済活動を活発化させるためとして、法人税を引き下げる構えだ。大手はその恩恵を従来のように内部留保に回すのではなく、働く人たちに還元する。同時に、非正規を正規に転換することも検討すべきだ。

 「アベノミクス」の果実が及んでいない道内はじめ地方や中小企業にとって、人件費アップは一筋縄ではいかない。政府は税制改正や雇用補助金などを通じて、賃上げ誘導策を打ち出すべきである。

 いずれにしても、働く人が安心して暮らせる政策なしに安倍首相の言う「景気の好循環」は実現しない。それを肝に銘じてほしい。

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