(朝日社説)過労死 立法契機に防止図れ

朝日新聞 2014年7月8日

 過労死等防止対策推進法が年内に施行される。先月閉会した通常国会で、超党派の議員立法で成立した。

 この法律は、働き過ぎによる過労死や過労自殺で家族を失った遺族が「自分たちのような思いをする人が続いてほしくない」と、制定を求めてきた。議員連盟が発足したのは昨年6月。およそ1年で成立したことになる。遺族の訴えに、政治が迅速に応えた。

 過労死が日本で社会問題になったのは1980年代後半だ。四半世紀が経過したのに、改善する兆しはない。

 厚生労働省の労災に関するまとめ(2013年度)では、長時間労働が主な原因でうつ病などの精神障害になり、本人や遺族が労災を請求したのは1409人。過去最高となった。認定された人は436人で、過去2番目に多かった。くも膜下出血や心筋梗塞(こうそく)を起こして認定された人も306人。3年連続で300人を超えた。

 この数字は氷山の一角に過ぎないだろう。労災は、請求に基づいて、労働基準監督署が認める。会社の協力がえられなかったり、長時間労働だったことを証明する客観的な証拠が残っていなかったりして、遺族が請求を断念する場合が多くあると指摘されているからだ。

 この法律は、過労死の実態を調査することを定めている。毎年、過労死の状況をまとめた白書が作られることになる。

 具体的な調査方法やまとめ方は、これからの議論に委ねられる。担当する厚生労働省は、全体像が明らかになるように工夫してほしい。そのために法律は、調査対象を労災の認定基準よりも広くしている。

 また、過労死対策をまとめた大綱をつくる責任が国に課されることも決まった。中身を点検するため、遺族が加わった協議会も新たに設けられる。この枠組みを生かして、具体策をつくっていくことができる。

 この法律には、長時間労働を直接規制する条文はない。だから「過労死を防ぐ力は弱い」という受け止め方もある。しかし「過労死」という言葉が初めて法律に書き込まれた意味は大きい。11月を、過労死等防止啓発月間にすることも決まった。長時間労働をなくすためには、私たち一人一人の意識改革が欠かせない。「長時間労働があって当たり前」。そんな意識が職場に残っていないか、点検するきっかけにもできるだろう。

 小さな一歩かも知れない。しかし、この一歩を生かして過労死のない社会につなげたい。

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