◇期待頼みでは続かない
安倍政権の高支持率を支えてきたものは、その経済政策「アベノミクス」への期待だったといえよう。だがその期待はしぼみ始め、効果に疑念が向けられつつある。
日銀が一般の国民に3カ月に1度、暮らし向きや景況感を尋ねるアンケートがある。1年後の景気が今より「良くなる」と答えた人の比率から「悪くなる」と答えた人の比率を引いた値が、安倍政権発足後の2013年3月調査で大きく改善し、7年ぶりにプラスとなった。
しかし3カ月後の調査でもう一段小幅改善した後は悪化を続け、今年9月には政権発足以来最低、民主党政権時代と変わらない水準まで落ち込んだ。背景に何があるのか。
◇広がらない恩恵
12年末、安倍政権は「デフレからの脱却」を最優先課題にスタートした。物価上昇目標を「2%」と明示し、過去にないスケールの金融緩和を日銀に実施させ、市場を大きく動かすことで、世の中の空気、人々の心理を一気に変えようと試みた。
顕著に反応したのは為替相場だ。2年前に1ドル=79円台だった円相場は最近では118円台である。円安に導かれ、東京市場の株価もぐんぐん上昇を続けた。「これまでとは違う」という空気が広がった。
実際に富を増やした人も少なくない。世界的大手コンサルティング会社、キャップジェミニとカナダの最大手銀行、カナダロイヤル銀行が先月公表したリポートによると、売却可能な資産が100万ドルを超える個人富裕層の総資産がアジアで昨年最も増加した国は日本だった。前年より24%増え、5兆5000億ドル(約640兆円)に達したという。株高の貢献が大きい。
しかし多くの国民、特に低所得者層にとってアベノミクスは、円安が招く物価高といった負の影響が大きい。消費増税による価格上昇に終わらず、値上げが波状的に押し寄せ、賃金の上昇はそれに追いつかない。
企業の間でも明暗は分かれる。1ドルあたり1円の円安で年間400億円の利益が上乗せされるというトヨタ自動車は今年度の最終利益が初めて2兆円を突破する見通しだ。だが、製造業でも多くの中小零細企業にとって円安は原材料や部品のコストを押し上げ、むしろマイナスに働く。
大阪商工会議所が製造業の会員企業に円安について聞いたところ、1ドル=110円程度の水準が続いた場合、「プラス面の影響が大きい」とした企業が7.4%だったのに対し、「マイナス面の影響が大きい」と答えた企業は54.5%を占めた。