台風でも宅配ピザを配達する必要はあるのか? 配達員の休む権利、事故の補償について考える
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20191011-00146425/
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。2019/10/11(金) 19:03
台風の日に宅配ピザを注文しないよう求めるピザ配達員の悲痛な叫びのTweetがバズっている。既に8万回近くリツイートされている。
「台風の日の注文はやめてくれ!!!台風の日に営業停止しない本部が一番頭悪いけど。本部の指示に従う我々、バイト勢にはどうしようもないだ!!どうか拡散してドライバーの命を救ってくれ!!頼む!!」
台風時に安全が脅かされるのは、ピザ配達員に限られない。ウーバーイーツなど宅配デリバリー配達員や、郵便配達員、新聞配達員なども、非常に危険な状態におかれている。
上に紹介したTweetの中で、台風時に配達員のバイクが強風のため立ち往生し、ついには転倒してしまう動画が紹介されている。台風時のバイクや自転車での配達は、スリップ・転倒などの事故を起こしやすく、労働者の安全面からみて大きな問題がある。
しかし、多くの配達員が、台風の直撃する12日、13日も通常通り働くよう言われており、配達員の命や身の安全が憂慮される状況にあるようだ。
そこで、この記事では、緊急に次の点について解説していきたい。
使用者には、労働者の安全に配慮する義務があること
甚大な災害による休業は、休業補償や雇用保険の対象になること
出勤して怪我した場合には労災保険を使えること
命の危険を脅かす命令はできない
使用者が労働者の健康と安全を守るよう配慮することは、労働契約上の義務である。これを安全配慮義務という。台風などの災害時には、使用者は労働者が業務や通勤時に、怪我や事故に遭わないよう細心の注意を払う必要がある。
非常に危険な台風が上陸する中で宅配を命じる行為は、この安全配慮義務に違反する可能性がある。
そのため、身の危険があるにもかかわらず、出勤を命じられた時には、労働者は出勤を拒否してよい。これを理由に使用者が労働者を解雇したり不利益な取り扱いをしたりすることは法的に認められない。
無理な出勤を命じられている場合は、安全上の理由から会社を休むことを伝えて、そのやり取りを録音しておくとよいだろう。また、伝え方が分からない場合は、今日・明日のうちに電話等で専門家に相談しておくとよいだろう(相談窓口について末尾に記載)。
休業補償や損害賠償を求めることもできる
とはいえ、仮に会社からの嫌がらせがなかったとしても、休んだことで収入が減ってしまう恐れがある。その点については、厚生労働省は、企業側が休業補償をすべきだとしている。
厚生労働省は、台風15号の際、労働者を雇用する事業者に対し、「事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切」であり、「休業を余儀なくされた場合の支援策も活用し、労働者の保護を図る」ことを使用者にすすめいる(「令和元年台風第 15 号による被害に伴う労働基準法や労働契約法に関するQ&A」)。
このような台風のために休んだ日の休業補償は、後述するように適切に交渉することで実現できる可能性が高いだろう。
雇用保険が適用される場合もある
また、台風によって、会社が甚大な被害を受けたことにより、事業の休止や廃止を余儀なくされた場合に、休業せざるを得なかった労働者は、災害救助法によって雇用保険の基本手当を受けられる場合もあるのだ。
それが「災害救助法の適用地域における雇用保険の特別措置」だ。
事業所が災害によって事業が休止・廃止したために、一時的に離職を余儀なくされた場合に、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、雇用保険の基本手当を受給できるのだ。
今年9月 に千葉県を襲った台風15号の時には、台風が来てから一週間ほどで、千葉県内の 41 市町村(25 市 15 町 1 村)が適用地域の認定を受け、雇用保険の基本手当の給付がなされている。
もしも怪我をしてしまったら労災申請や損害賠償請求をできる
さらに、仮に出勤せざるを得ず、強風や激しい雨のために怪我を負った場合などには、労災保険が活用できる。
労災保険は、業務中に負った怪我の治療にかかる治療費や、休まざるを得なかった日の休業手当(平均賃金額の6割程度)等を給付してくれる保険制度だ。
保険給付の申請は、労働者個人で労働基準監督署におこなうことができる。
労災申請が通れば、ゲガの理由が業務ということになるので、会社には損害賠償責任が生じ、労災保険の休業手当だけでは足りない部分の損害賠償請求ができる。
また、ウーバーイーツなど個人請負の配達員であっても、「使用者責任」を問える可能性がある。怪我による医療費や働けなくなった期間の収入分の補償を使用者に求めることができる可能性がある。
これらの権利については、労働側の利益を代表する労働組合・ユニオンに加入することで即座に交渉することができる。台風時の出勤についてもそうだし、休んだ場合の休業補償や労働災害についても「団体交渉」によって解決することができる(もちろん、時間をかけて事後的に裁判に訴えることもできる)。
宅配業に限らず、土曜日、日曜日に勤務を命じられているサービス業の労働者は多いことだろう。危険や疑問を感じたら、労働組合に加入し、企業側の安全配慮義務や、休業補償について話し合いをしてみてほしい。
下記の窓口は、今日、明日も災害関係の労働相談を受け付ける予定である。
無料労働相談窓口
NPO法人POSSE
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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
労働・福祉運動家/社会学者。NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2500件以上の若年労働相談に関わる。著書に『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)、『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp、03−6699−9359。