第147回 若者の働かされ方の地獄絵を見るようです

今月7日、飲料水配送会社に勤めていた08年8月に過労自殺した兵庫県尼崎市の若者(当時27歳)の両親が、息子の死は、会社が健康配慮義務を怠って長時間過重労働に従事させたことが原因だとして、会社に計約8300万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴しました。

それを事前に報じた5日の「毎日新聞」(大阪)によれば、その若者は、大学卒業後約5年間、アルバイトをしながら正社員職を探し、08年4月に大手飲料メーカーの配送業務と自販機の補充業務を行う「日東フルライン」(大阪市住之江区)に就職し、4ヵ月後に死亡しました。両親は過労によるうつ病が原因として労災を申請し、大阪西労働基準監督署で昨年6月に認定されました。タイムカードでは、うつ病発症前1カ月の時間外労働は約104時間、3カ月平均は約81時間であったといいます。今回の訴訟は、民事上の会社の責任を追及するために起こされたものです。

この記事には「過労死や過労自殺が若年化している。正規雇用されても過労死しかねないという、就職を巡る若者の地獄絵図を見るようだ」という私の一言コメントが付されています。

この若者がコカコーラなどの飲料水(ソフトドリンク)配送会社に有期雇用の契約社員などではなく、正社員として入社したかどうかは不確かな点もありますが、彼が正社員職を探していたこと、「きつい仕事みたいだが、やっと正社員になれたから頑張る」と張り切っていたことは確かです。大学卒業後の数年、アルバイトの非正規労働者として働き、ようやく正社員になれたと思ったら、入社後わずか4ヵ月で過労自殺。ここに現在の日本の働き方の悲惨さが集中的に表れています。

前に、立教大学経済学部の100周年記念シンポジウム(佐高信・雨宮処凛・森岡孝二『信号機の壊れた「格差社会」』岩波ブックレット、No.722、2008年4月)で、こう述べたことがあります。

「いまの労働現場は、非正規労働者にとって非常に過酷なものであるとともに、正社   員にとっても過酷なものになっています。/労働者は、どちらの過酷さを選択するのかが迫られているとも言えます。一方で雇用が不安定で賃金がいつまでも上がらない非正規雇用であれば,非常に低い収入しか得られない。他方で、正社員になって雇用が安定するかと思うと、猛烈な働き方を要求されて、働きすぎの状態になる。大ざっぱに言ってしまうと、一方を選ぶと貧困が待っており、他方を選ぶと働きすぎ・過労が待っている。極言すると、一方にはワーキング・プア、他方には過労死がある。いまの日本の「格差社会」は、その二つの極端――ワーキング・プアと過労死――が、抱き合わせのセットになってあらわれているところが大きな特徴です」。

私がさきのコメントで、「就職を巡る若者の地獄絵」という言葉を使って言いたかったのも、こういうことです。

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