第148回 惨劇は帰り支度を始めた矢先に起きた(2001年9月11日)

9.11(セプテンバー・イレブン)から10年と2週間が経ちました。あの日を記憶にとどめるために、休眠状態の私のホームページの「ニューヨーク通信」から往時のレポートを貼り付けておきます。

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2001年9月11日、ニューヨークのワールド・トレード・センター(WTC)とワシントンのペンタゴン(米国防総省ビル)にテロリストのハイジャック機によるアタックがあり、数千人の命が一瞬に奪われて、世界に衝撃が走りました。

留学先のニュースクール大学はマンハッタンの5番街の、北にエンパイア・ステート・ビルが見え、南にWTCのツインタワーが見えていた位置にあります。あのツインタワーには留学中何度か足を運びました。8月半ばに子どもたちが来たときと、9月初めに知人が来たときは、南棟(2回目に攻撃を受け最初に崩れ落ちた第2ビル)の107階にある「トップ・オブ・ザ・ワールド展望台」にも登りました。そこから見下ろすニューヨークの夜景はいかにも平和に思われました。しかし、あの日からすべては一変しました。

事件は遅い朝食をとって、CNNテレビを観ているときに始まりました。午前8時50分頃だったか、画面が急にWTC北側の第1ビルの上部壁面から煙が出ているシーンを映し出しました。9時過ぎには南側の第2ビルに飛行機とわかる黒い影がぶつかって爆発し、ツインタワーが二つとも炎上し始めました。その後、ペンタゴン(米国防総省ビル)も攻撃を受けたというニュースが流れ、パニックのような状況になりました。ツインタワーはニューヨークのランドマークであり、アメリカ資本主義の象徴でもありましたが、その一方の南棟が午前9時59分に、また北棟が午前10時28分に、もろくも崩れ落ちて二つとも瓦礫と化しました。

日本でも詳しく報道されたのでご存知でしょうが、テレビの画面に映るWTCの現場とその周辺の光景はまるで大地震か大空襲のあとのようでした。悲鳴と泣き声が始終聞こえ、救急車が行き交い、黒煙が立ちこめる。レポーターは人々が逃げまどう姿を実況しながら、「これは映画のシーンではありません。これは現実です」と叫んでいました。「これは戦争です。私たちの仕事を超えています」と語っていたレスキューの人もいました。九死に一生を得て生還した人々や、街を歩いていて倒壊の爆風と粉塵に巻き込まれた人々は、灰まみれ、傷だらけで、まるで戦場の惨状のようでした。死傷者の数は、午後10時現在も、数千人の命が失われたと言われるだけで正確なことはまだわかりません。

*ニューヨーク市当局の2001年12月10日の発表によれば、WTCのテロ事件の死者・行方不明者は当初発表より大幅に減って3045人になった。

今日のCNNニュースは「攻撃下のアメリカ」というタイトルのもとに、特別報道態勢をしいています。アメリカがこのように攻撃されたことはかつてなかったことです。テロは絶対に許されませんが、ブッシュ大統領は、これを「戦争」といい、「われわれに誤りはない。犯人や協力者には必ず報復する」と言っていることからも、強硬路線に出るでしょう。しかし、それは新しい危険を招く恐れがあります。

マンハッタンは現在、戒厳令に近い統制下におかれています。今日は空港、橋、トンネルが閉鎖され、地下鉄もストップして、証券市場の取引も無期限停止になっています。朝、第1回目のアタックがあったときまでは、CNNに出るダウの予想(future)は上昇を伝えていましたが、アタックのあとは、急に大幅な下落となり、実際に市場が始まる時間には閉鎖になりました。最近の経済指標や株価の動きは、景気が悪化し不況に突入する兆候を示していましたが、このテロで不況が強まることは必至です。観光や消費がダメージを受けるだけでなく、製造業から金融、サービスにいたるまで経済活動全般が深刻な影響をこうむるでしょう。状況は違いますが、1995年に日本で起きたオーム事件と阪神大震災が日本の不況悪化の心理的なシグナルとなったことを思い出します。

<ご参考> 

9.11前後のアメリカ事情について帰国後に書きました。その拙稿はこちらで読むことができます。

『経済科学通信』第98号、2002年4月、特集「テロ・報復戦争後の世界」
「アメリカにとっての2001年9月11日」

http://www.zephyr.dti.ne.jp/~kmorioka/paper20010911.pdf

愛媛大学経済学会講演
「ニューヨークで見たアメリカの経済と社会 ――2001年9月11日の前と後で」

http://www.zephyr.dti.ne.jp/~kmorioka/lecture011212.pdf

 

 

 

 

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