第290回 神戸新聞 随想第4回 久しぶりに映画を観て

神戸新聞 2015年6月23日

                   久しぶりに映画を観て

実話をもとにした映画「パレードへようこそ」(原題はPride)を観た。

1984年の英南西部・ウェールズでは、サッチャー首相の炭坑閉鎖に反対して、労働者たちがストライキに立ち上がっていた。

そのころロンドンではゲイとレズビアンのグループが差別と偏見の中で、敵は自分たちと同じサッチャーだと、街頭募金で炭坑の労働組合を支援しようとしていた。

しかし、そんなグループの寄付を保守的な炭坑町で受け入れてくれる組合はすぐには見つからなかった。ひょんなことからある組合指導者と主婦たちの理解を得たものの、現地の男たちからは冷たい視線を浴びた。やがて友情と連帯が芽生えるが、ストは敗北する。

クライマックスは翌年6月のロンドンのゲイプライドパレード。集合場所の公園に数台のバスが着く。降りてきたのは前年の支援へのお礼に駆けつけた数百人の炭坑労働者たちであった。

この年、私はロンドンに留学していた。友人のポンコツ車でウェールズにも行った。炭坑ストを騎馬警官が弾圧する写真も見た。マンデラ支援や反核のデモにも参加した。それでもゲイパレードのことは知らなかった。

2001年6月、在外研究でニューヨークにいたとき、25万人が参加したというゲイプライドの行進に遭遇した。目に入ったのは結婚や住宅や雇用の平等な権利を!というスローガンである。

あれから14年。この映画を観て、私のなかで大西洋を跨ぎ世界に広がる新しい平等権の歴史が繋がった。それと同時に、性的少数者の権利の承認では、日本は周回遅れのランナーであることにも気づかされた。
 

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