雇用保険法・労災法・高齢法等が一括審議 (2/10)

2020年2月10日全労働 第2185号第3面

労働法制をめぐる動向に注視が必要
 雇用保険法・労災法・高齢法等が一括審議

 労働政策審議会は1月8日と9日、関係分科会・部会で「雇用保険法等の一部を改正する法律案要綱」を確認しました。法案は雇用保険法、労働保険徴収法、高齢者雇用安定法、労働施策総合推進法、労災保険法等の一部改正案を一括法案とし、開会中の通常国会への提出が予定されています。また、予算関連法案であるため、3月までに審議を終える必要があり、きわめて短期間の審議となることが見込まれます。ここでは、主要な3つの法案を取り上げ、その特徴や課題を明らかにします。

 雇用保険法が3本柱に
 育児休業給付を格上げ

 雇用保険は「失業等給付」と「雇用保険二事業」の2つの領域から成り立っていましたが、失業等給付の中に位置づけられていた育児休業給付を3つめの柱とし、位置づけを大きく「格上げ」します。また、収支に関しても、失業等給付と区別します。国庫負担割合については、雇用保険の費用に対し、失業等給付が本則の10分の1である40分のlで運用されるの育児休業給付は8分の1となります。
また、雇用保険料(現行、失業等給付千分の6)のうち、3分の2を育児休業給付に充てるとされており、財政面でも手厚く保障されます。

 高齢複数就業者も合算週20時間以上で被保険者

 一方、65歳以上のマルチジョブホルダーで、週20時間未満の仕事に複数就いており、合算した労時間が週20時間以上となる者を被保険者とします。これは大きな見直しであり、適用や給付の考え方が何ら示されていた いにもかかわらず、施行は2022年1月とされています。
さらに、被保険者期間が12月に満たない場合、賃金支払の基礎となった労働時間が80時間以上である月について、受給資格の算定における1月として計算するよう見直されます。
2017年改正時、特定受給資格者以外の受給資格者に係る給付の拡充が附帯決議で求められていたにもかかわらず、給付の拡充は行われず、国庫負担割合や保険料率を引き下げたまま据え置きます。一方、高齢雇用継続給付について、2025年4月1日から一定割合で逓減させます。
その他、法律事項ではありませんが、雇用保険部会報告では、自己都合退職者に対する給付制限期間を5年間に2回に限り、2ヵ月ヘ短縮するとしています。
日本経団連が昨年9月に公表した「雇用保険制度見直しに関する提言」では、「1984年改正以前の1ヵ月への短縮が考えられる」としていたものが、なぜ2ヵ月とされたかは不明です。

 安定に程遠い高齢者雇用安定法
問題の多い創業支援等措置

 今回の改正では、高齢化の進展に伴い、65歳から70歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならないとしています。ただし、当該事業主が創業支援等措置を講じることにより、70歳までの安定就業機会を確保する場合はこの限りでないとしています。

 個人事業主でも安定した雇用か

 安定した雇用の確保には、「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の廃止」が掲げられ、これらが実施されるなら、効果が期待できます。
しかし、その他の「創業支援等措置」には2つの制度が示されています。一つは、「労働者が新たに事業を開始する場合に、事業主が当該労働者との間で当該事業に係る委託契約を締結する制度」です。これは、近年急速に進められている労働者の個人事業主化であり、ケン・ローチ監督の最新作「家族を想うとき」に描かれるように、収入は安定せず、作業中の事故等もすべて自己責任で、使用者責任をすべて問わないものです。これでは、65歳以上の高齢者が個人請負化の先行事例とされかねません。

 有償ボランティアも安定就業確保に

 もう一つは、「事業主が実施する事業や、事業主が団体に委託する事業、事業主が資金提供等の支援を実施する事業であって、不特定多数の利益の増進に寄与する金銭が支払われる業務に従事する制度」です。これは、いわゆる有償ボランティアです。事業主が若干のカンパをした事業に従事をした際に、少額であっても金銭の支払いがあれば「安定就業機会の確保」となってしまいます。改正案の「創業支援等措置」は雇用の安定とは程遠い制度と言わざるを得ません。

 複数就業者の労災を見直し
行政体制の整備が急務

労働条件分科会労災保険部会が12月23日に開かれ、「複数就業者に係る労災保険給付等について」とする報告書がとりまとめられました。

 給付額や認定方法の見直し

 そこでは、多様な働き方を選択する者やパlト労働者等で複数就業している者が増加している実情を踏まえ、副業・兼業を含めた複数就業者にかかる労災保険制度(給付額、認定方法)の見直しを行い、複数就業者が安心して働くことのできる環境を整備するために法改正を行うとしています。

 改正の概要は、?複数の就業先での業務上の負荷を総合的に評価した場合の保険給付を新設する、?複数就業者に係る給付基礎日額の特例を整備する、?平均給与額の修正により、スライド率等を変更することによって生じた保険給付に係る未支給の保険給付の支給を受ける権利について、会計法の特例を措置する、?複数就業者の場合におけるメリット収支率の算定方法において、今般の新たな保険給付はメリット収支率に影響させないとしています。

 この内容により、労災保険法及び労働保険徴収法を一部改正し、施行期日について、前記?、?、?は公布後6カ月の範囲内で政令で定める日、?は2020年4月1日としています。

 兼業、副業などの複数就業の労働者が増えている現状において、労災認定基準や給付基礎日額の算定方法を見直し、複数就業者に対する環境整備が求められています。

 こうした中、労災保険法改正案は今年度中の施行をめざしていますが、認定基準の見直しは第一線職場の業務運営にも大きな影響を与えるため、早期に業務処理要領を示すとともに、必要な行政体制を整備することが不可欠です。

 給付基礎日額 : 原則として、労働基準法の平均賃金に相当する額。
 スライド率 : 労災保険の年金は長期にわたって給付することになるため、被災時の給付基礎日額を賃金水準の変動に応じて改定し、公平性を保つ制度。
 メリット収支率 : 保険料負担の公平性の確保と労働災害防止努力の一層の促進のため、一定要件を満たす事業場の労災保険料を過去の労働災害の発生の多寡に応じて一定の範囲で増減させる制度。

今後の労働法制をめぐる動向 
・兼業・副業の場合における上限規制と割増賃金に関する労働時間の通算
 →労働政策審議会労働条件分科会で議論中

・裁量労働制の実態調査
→検討会報告に基づく調査を実施中

・解雇無効時の金銭救済制度
 →厚労省内の検討会で議論中

・雇用類似の働き方における法的保護の在り方
 →厚労省内の検討会で議論中

・労働者派遣法における日雇い派遣の規制緩和
 →労働政策審議会職業安定分科会で議論中

・労働時間上限規制の適用猶予期間後の対応
 →医師・自動車運転ともに労働政策審議会労働条件分科会で議論中

・労災認定基準の見直し
 →精神障害については厚労省内の検討会で議論中
 →脳・心臓疾患については2020年度に検討会を設置予定

  

この記事を書いた人