新型コロナ対応、日本と海外の「決定的な差」 フィンランドと比べてみると…
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岩竹 美加子 ヘルシンキ大学非常勤教授 gendai.ismedia 2020.03.06
■「休校にする必要はない」
3月1日、ヘルシンキ大学教育学部付属小学校6年生の3クラスと4年生の1クラスが封鎖され、合計130人が2週間の自宅静養を指示された。
始まりは、一人の6年生の子どもである。その子には軽い風邪のような症状があったが、学校に行き、その後スポーツクラブでサッカーをした。フィンランドの学校に部活はなく、市などのスポーツクラブに行って練習する。その子が、コロナウイルスに感染していることが判明した。接触があったのは、学校とサッカーチームで合計130人である。
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その子は、6年生の3クラスと4年生の1クラス、4つのクラス全ての子どもと接触したわけではないが、誰と接触があったかを特定することは難しい。大事をとって4つのクラスが閉鎖された。しかし、それ以外のクラスへの感染はなく、学校を休校にする必要はないと医師が判断した。
自宅静養になった130人には、小学校の先生やサッカーのコーチなど大人も含まれている。フィンランドの学校で、1クラスの人数は20〜25人と少ないので、4つのクラスプラスアルファであっても、人数はそれほど多くならない。
自宅静養中の子どもの親兄弟が、感染を広げる危険はないので外出は自由だいう。しかし、静養中の子どもに咳や熱などの症状が現れたら注意が必要で、医療センターなどに行く必要がある。
家にいる子どもには、学校がインターネットによる教育を提供する。フィンランドの学校では1990年代からICT化が進んでいるので、こうした場合も対応に混乱がない。
また、感染病法によって、16歳以下の子どもがいる親には、病気の子どもが元気そうに見えても仕事に行かず一緒に家にいる権利があり、必要な場合は収入の補償が得られる。フィンランドでは在宅勤務も多い。仕事に行かなかったために収入が減ったり、なくなったりする心配はあまりない。
感染病法は、必要な場合には学校閉鎖ができることも規定している。
■フライトのキャンセル
3月3日現在、フィンランドで感染者は7人、家で静養中の人は約150人である。
最初のコロナウイルス感染のニュースは、1月29日。ラップランドを旅行中の32歳の中国人女性が感染していた。入院し治療を受けて、2月5日に帰国。その感染者と接触があったのは15人である。
2月26日になって、イタリア・ミラノから帰国したフィンランド人が感染していたことがわかった。生産年齢(18〜65歳位)にある女性で、ヘルシンキで入院。接触があったのは2人である。
2月28日には、ミラノからの別の帰国者の感染が報じられた。生産年齢にある女性で、 15人と接触があり、その内の3人が隔離された。130人の自宅静養の起因となった小学6年生の子どもは、この女性の家族のようだ。
これらのケースでは、拡大を防ぐことができるという。しかし、旅行などによって新たな感染が広がることはありうる。
フィンランド航空は、ミラノへのフライトを3月9日から4月7日まで、また中国・広州へのフライトを3月5日〜3月29日までキャンセルしている。
■過剰な反応はしない
フィンランド人への初のコロナウイルス感染がわかったのは2月26日。翌27日は、国会でサンナ・マリン首相のスピーチがあった。感染がフィンランドでも起こる可能性があることは予測されており、政府の反応は早かった。
ミラノで感染した患者の症状は軽く、回復に向かっている。落ち着いて受け止めてほしい。政府として重要なのは、様々な状況に備えて周到に計画的な準備をすること。準備は充分にしているが、過剰な反応は、かえって害になることがある。過剰な反応や行動は避けることも重要だ。
高齢者と基礎疾患を持つ人は、感染すると重症化しやすいが、子どもへの感染は比較的少ないことがわかっている。予防としては、手をよく洗うことが一番大事だ。
体温の測定にはあまり信ぴょう性がなく、コロナウイルス感染防止の効果はない。また、他の病気による、同様の症状が観察されることもあって、検査はコロナ感染発見には必ずしも効果的ではない。現在までに、約100の検査がされたが陰性だった。検査は、必要に応じて行っていくが、過剰な行為は控え、政府としては思慮深く行動したい。
現在は、「健康ウェルビーイング庁」を中心に各省庁が協力し、今後の様々な状況にも充分備えている。フィンランドの医療の質とスキルは高い。WHO(世界保健機関)など国際的な機関とも連携している。SARS(重症急性呼吸器症候群)など以前の感染症から得た知識と経験もある、といった内容の首相スピーチだった。
同日、 教育大臣は、保育園と学校は「健康ウェルビーイング庁」の指示を参考にしていくと説明。子どもも、手をよく洗うことが大事と述べた。フィンランドでは、マスクには予防としての効果はあまりないとされている。咳やくしゃみが出る場合、マスクは人への感染を防ぐが、感染の予防にはならない。
コロナウイルスに関する噂や推測が世界中に広がって、恐れや不安を増長させている。しかし、18歳以下の感染は2.4%と小さい。WHOによると子どもから子どもへの感染については不明な点が多いが、子どもから大人への感染はほとんどないという。
■第一に考えること
状況は刻々と変化していて、3月3日以降、ヘルシンキでは小児病院の駐車場で、車の中にいてコロナウイルスの検査を受けられるようになった。今後、感染が広がり、自宅静養では充分な対応ができない場合は、隔離のためにホテルの部屋を用意することなども視野に入れられている。
フィンランドの国営放送Yleは、毎晩8〜9時台に大臣や政治家、専門家などを迎えて、さまざまな社会問題について討論番組を放映する。最近は、コロナウイルスについての話も多く、移り変わる状況や情報を知ることができる。
フィンランドでは政府や医療機関、学校などの対応がしっかりしていて、不安を感じないよう配慮され、冷静に受け止められている。また、市民のウェルビーイングと安全が第一に考えられていることに対する信頼感がある。
■配慮が足りない日本の対応
日本国内で初の感染者が出たのは、1月16日。2月には、横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号内での感染が問題になったが、安倍首相が会見を行ったのは29日である。
それに先立つ2月27日、安倍首相は全国の小中高校に3月2日から春休みまでの休校を要請した。専門家の意見を聞いたわけではなく、個人的な独断である。国会では、全国の小中高生の感染者数を厚生労働大臣が即答できない場面もあったが、確認できているのは4件のみという状況で全国的な休校に入った。
その一方で、放課後の子どもを預かる学童保育は続けられている。子どもへの感染予防を目的とした休校というわけではない。
子どもが家にいるとなると親の仕事はどうなるのか、仕事を休まざるを得なくなる親への補償をどうするのか等については、当初は全く考えていなかったようだ。当然、母親が家で子どもの面倒を見ると思っていたらしい。
教育は、地方自治体が判断すべきことである。休校の始まりを延期、または休校しない自治体もあるが、それは少数派に止まっている。
文部科学省によると3月4日現在、休校している公立小は全体の98.8%、公立中高がそれぞれ99.0%だという。
一方、経済産業省はコロナウイルス感染症対策として、「学びを止めない未来の教育 EdTech」を推奨している。経済産業省は、従来の一斉授業とは異なる「個別最適化」を掲げているが、EdTechは公教育の民営化に踏み出すものだ。全国の休校は、そのためのビジネスチャンスであるかのようにも見える。
さらに安倍首相は、3月2日の参院予算委員会で「国民生活への影響を最小化するため、緊急事態宣言の実施も含めて新型インフルエンザ等対策特別措置法と同等の措置を講ずることが可能となるよう、立法措置を早急に進める」と発言した。
これは、コロナウイルスの政治利用である。不安を鎮めるめるのではなく、緊急事態宣言に繋げようとする。子どもと国民の安心や安全、ウェルビーイングへの配慮はまったく感じられない。
小学校の4つのクラスを閉鎖したフィンランドと、全国の小中高校を休校にした日本。コロナウイルスへの対応を通じて、2つの国のあまりにも異なる政治と社会のあり方が立ちあらわれる。
【主要参照文献】
・https://www.hs.fi/politiikka/art-2000006420783.html
・https://www.hs.fi/kaupunki/art-2000006424349.html
・https://www.hs.fi/kaupunki/art-2000006424968.html