新型コロナによるリストラは泣き寝入りもやむなし?~労働者が取り得る選択肢とは~
https://news.yahoo.co.jp/byline/shimasakichikara/20200315-00167809/
嶋崎量 | 弁護士(日本労働弁護団常任幹事)2020/03/15(日) 16:20
新型コロナが雇用に与える影響
新型コロナの問題が、雇用に大きな影響を与えています。
当初は、一斉休校などで直接的な影響を受けた学校職場などでの仕事を外された非正規教員等のケースや、休校となった子どもの世話をするため仕事を休めないといった相談が中心でした。
ですが、現在はそのような相談類型にとどまらず、幅広い業界でコロナショックを理由にしたリストラなどの相談が増えています。
対象も、こういった経済状況に置いて真っ先にリストラ対象となる、フリーランスや派遣・契約社員などの非正規労働者だけでなく、正社員にも及んできています。
新型コロナにより生じている労働問題は、大きく分類すると、休業補償の問題、職場の感染対策など労働安全衛生の問題、新型コロナによる対応での長時間労働の問題(一部製造業、医療現場など)などがあります。
今回は雇用自体が打ち切られる、リストラのケース(正社員の例)を中心にして、新型コロナの影響による労働トラブル全般への具体的な対処方法を取り上げます(末尾注1:非正規労働者の場合)。
リストラの問題
先日、私の何気ないTwitterのつぶやきに、リツイート1万9600超、いいね2万8800超(本記事執筆時)と大きな反響があり、私も大変驚きました。
嶋量(弁護士)@shima_chikara
「コロナ騒動で売上落ちてるし解雇されても仕方がない」と思っているあなた、間違いです!
労働者に何ら責任のない経営上必要とされる人員削減のため行われる解雇は、通常の解雇よりも厳格に規制されると解釈されています(整理解雇の4要件)。
これ、重要です。
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10:06 – 2020年3月13日
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このTwitterへの反響をみて、改めて、コロナショックなど経済危機を理由とするリストラに対しては、労働者はそのまま受け入れるしかない、という誤解が多く広がっていることを実感しました。
上記ツイートのように、コロナショックのような経済危機を理由とする解雇は、一般的に「整理解雇」と呼ばれています。
そもそも、いわゆる正社員についての解雇は、労働契約法16条において、客観的な合理性と、社会通念上の相当性がなければ認められない(=解雇が無効となる)とされ、使用者の解雇には規制があります。
そして、多様な解雇の類型の中でもこの整理解雇は、「労働者の私傷病や非違行為などの労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇である点に特徴があり、長期雇用慣行が一般的なわが国では、解雇権濫用法理の適用においてより厳しく判断すべきものと考えられている」(菅野和夫「労働法第12版」793頁)のです。
つまり、労働者側には何ら責任のない解雇、経営責任を負う使用者の経営上の理由による解雇ですから、通常の解雇と比較しても、より厳格に解雇が規制されているのです。
具体的には、整理解雇は以下の4つ要件で判断されるとされています(末尾注2)。
1 人員削減の必要性があること
2 解雇を回避するための努力が尽くされていること
3 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること
4 事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしていること
たとえば、「1 人員削減の必要性がないこと」については、収支や借入金の同項、役員報酬の動向などが考慮されるとされているので、会社全体の収支が現状さほど悪化していない、借入金の余力がある、役員報酬は従前通り、新型コロナ対策で拡張された雇用調整助成金の特例を検討・活用していないこと等の事情があれば、解雇が無効とされる方向で考慮されます。
また、「2 解雇を回避するための努力が尽くされていること」については、希望退職者の募集などせずいきなり解雇していること、余剰部署からの配転などが考慮されていないこと等の事情があれば、解雇は無効とされる方向で考慮されます。
解雇されたときの具体的な対処
解雇を通告してきた場合、なぜ解雇なのか、しっかりと解雇の理由を説明してもらいましょう。できれば、そのやり取りは録音など記録に残すのがベストです。初期段階で、使用者がどのような解雇理由を説明するかは本音が現れるので重要です。
そのうえで、文書で理由を開示してもらうことも有用です。使用者は、労働者から求めがあれば、退職の前後を問わず、解雇理由を記載した証明書を労働者に交付しなければならないとされています(労基法22条1項、同2項)。
なお、解雇された場合、即時解雇であれば解雇予告手当を請求できる場合が多いですが、これを労働者側から請求するのは少し待ってください。後で解雇を争いたいときに、「解雇を受け入れた」「就労する意思を無くした」といって無用な争点をつくり争う上での足かせになりかねません。
ただ、使用者が解雇予告手当を支払ってきた場合、あえて突き返す必要もありません。「解雇後の賃金として受領」すれば足りますので、そのように使用者に伝えれば足ります(メールなどで良いので証明できるようにしましょう)。なお、退職金の処理も基本的に同様です。
あえて解雇してこないことも
使用者は、「労働者に解雇する」と告げて、職場にはもう居場所がないのだと脅しをかけつつ、最終的には労働者に退職届を出させようとすることも多いです。
そんなとき、自分から絶対に退職届を出さないように注意してください。使用者に対しては、難しいことですが、毅然とNO!と言えるかどうかが、重要です。
使用者が退職届を出させようとするのは、解雇することによる事後のトラブル回避や、会社都合退職者数の増加によって助成金が得られなくなることを防ぐためなどの理由ですが、労働者からすると自ら退職届を出してしまうことで、後で不当な解雇に対して争う途を狭められてしまいます。
また、退職理由を「自己都合」にされてしまうことで、労働者が解雇されてから、退職金が自己都合扱いで減額されてしまうとか、失業保険を直ぐに受給ができないといった不利益(待機期間が3ヶ月発生して直ぐに受給できないケースもあります。ただし、実際には離職票に使用者が書いた離職理由を問わず、退職を強いられたことがわかれば、雇用保険法33条の「雇用保険の受給制限のない自己都合退職」として直ぐに受給できる可能性もあるので、諦めないでください)があります。
解雇を受け入れる以外の選択肢
解雇された場合、それがたとえ本来は無効な解雇であっても、これを受け入れて新たな就職先を探すのも選択肢です。実際に多くの労働者は、その選択肢を選んでいます。
ですが、労働者が取り得る選択肢は、それだけではありません。
本来許されない解雇に対して、きちんと争うことで、自身の雇用を守ることもあり得る選択肢です。実際に私の依頼者も、一度は解雇されても使用者に解雇を撤回させ職場に戻っている方は沢山いらっしゃいます。
また、職場には戻らなくても、不名誉な解雇に対してきちんと抗い、何らかの法的措置をとり、金銭的な補償を勝ち取っている方もいらっしゃいます(統計上は、解決事例の圧倒的多数は職場には復帰しない金銭解決)。悔しいけれど職場には戻れそうも無いという方も、争う余地は十分にあります。
費用の心配は?
解雇されたあと、どのような対応をとるのかは、その方の置かれた環境にもよるでしょう。が、手元の生活費・軍資金が無いからと言って、簡単に諦める必要はありません。
まず、様々な相談窓口において、相談なら無料で対応してくれるところが多数あるので心配はいりません。労働組合に加入して使用者と解雇ついて交渉する場合、加入を諦めねばならないような高額な組合費がかかることはないはずです(組合費は各労働組合が独自に決めていますが、そんな労働組合を聴いたことはありません)。
一般的には高い費用がかかるイメージのある弁護士も、(法テラスへの相談担当者などとは異なり)労働者側で専門的な対応ができる日本労働弁護団の弁護士であれば、初期費用がない方でも事件を依頼できるようなシステムをそれぞれ確立しているはずです(解雇された場合、手元資金に不安がある労働者は珍しくないからです)。
まずは軍資金のことは気にせず、気軽に専門家へのご相談をお勧めします。
どこに相談したら?
重要なのは、早期に専門家に相談することです。
まず私のお勧めする専門家としての相談先は、1人でも加入できる労働組合への相談です。良くある誤解ですが、職場に労働組合がなくても相談できます。各地域に、「ユニオン」などの名称で、1人でも加入できる労働組合がありますので、検索してみてください。
ご参考までに労働組合をご紹介すると、全国組織の労働組合で最も規模の大きい連合では、各地で通話料無料の電話相談を解説しており、新型コロナ対策の相談にも対応しています。
また、弁護士へのご相談であれば、労働者側で労働問題に取り組む日本労働弁護団の弁護士へ相談することをお勧めします。全国各地で無料の電話相談も実施しています(日常的にボランティアで対応しています)。
弁護士の相談先として、費用を節約したいと考える方が法テラスをあげる方が多いですが、私は法テラスへの相談はお勧めしません。弁護士であっても、専門的な対応が要求される分野ですが専門性が担保されないのが主な理由です(運良く、法テラスでも専門性ある担当者にあたる可能性は否定しませんが)。
なお、よく労働基準監督署長を頼ろうとする方がいらっしゃいますが、解雇それ自体を争う相談は労働基準監督署の対応外ですので、この場合の相談先としては不適切です。
行政の相談先としては、都道府県労働局の総合労働相談コーナーもあり、ここでは解雇の相談も対応してくれます(無料)。労働相談や、紛争当事者による自主的な解決を促進する「助言・指導」、それでもダメな場合は「あっせん制度」もありますが、強制力のある解決を模索するのには適さないように思います(解決しなかった場合、希望者には裁判など他の紛争解決期間の説明・紹介などをしてくれます)。一般的な傾向として言えば、高い水準での解決を求めるなら時間の無駄かもしれません(あくまでも、私の私見に過ぎませんが)。
使用者と争う場合、具体的にはどうなるの?
労働組合の場合
労働組合に相談したからといって、いきなり組合に加入を強制されることはないはずです。まずは気軽にご相談下さい。
そのうえで加入すると、労働組合から使用者に対して、労働組合加入通知と団体交渉申し入れがなされ、そこで解決が試みられるのが通例です。使用者は、労働組合からの交渉申入れに対して、弁護士の場合とは違い法的に交渉に応じる義務(団体交渉応諾義務)があります。
団体交渉で、職場復帰や納得する金銭支払による解決が図られることも珍しくありません。
団体交渉では解決しなかった場合、労働委員会で解決をさぐったり、裁判所を通じた解決を図るため労働組合が弁護士を紹介したりすることもあります。その場合など、裁判費用がない労働者に弁護士費用の立て替え制度を持っている労働組合もあります。
労働組合が解雇事件を解決する上での最大の強みは、憲法や労働組合法が認める争議行為ができることです。単なる私人がやれば業務妨害になるような抗議行動なども、通所の労働組合のやり方の範疇ならば民事も刑事も免責されます(なお、労働組合に入れば、常に抗議行動をする訳でもありません。気になる方は組合加入前にその労働組合の方針を確認してみてください)。
弁護士の場合
弁護士の場合、法律相談を経て依頼を受けた場合、まずは使用者と交渉をすることが通例です。
その後、交渉では解決しなかった場合は、通常は裁判所を使った解決を模索します(手続きは、労働審判、通常訴訟、仮処分があります)。弁護士の場合、使用者に団体交渉応諾義務はありませんが、使用者は交渉がまとまらなければ裁判などを起こされる現実のリスクを感じるので、交渉にはそれなりの圧力があります。
私のように労働組合とも深い付き合いがある弁護士は、事案の特質を判断して、裁判所の手続きはつかわず、またはそれと同時に、労働組合にも加入してもらい解決を探ることもあります。
どういった手続きをとるのかは、事案によりけり、としか言えません(医師の治療方針のようなものでしょうか)。
なお、弁護士費用の額・支払い方法は突き詰めれば人それぞれ、です。とはいえ、相談だけでいきなり事件を依頼した費用を請求されることはありませんので、遠慮せず聴いてみて下さい。
解雇を争うことは会社に酷では?
解雇されたことに対して憤りをもちつつも、世話になった会社に対して「恩を仇で返すようだ」「苦渋の決断として解雇したのだから」といった気持ちで、会社と争うことに躊躇いを感じる方も多いです。
たしかに、世界的規模の株価の下落状況や人通りの閑散とした街並みや、大きく売り上げ等が減少する職場レベルの状況などを踏まえると、コロナショックで多くの使用者が経済的な苦境に立たされており、その回復の目途もたたないという現状はあるでしょう。
しかし、だからといって、直ちに使用者のリストラが何でも正当化されることにはなりません。使用者には、労働者の雇用を維持する法的・社会的な責任があるのです。
このような結論は、一見すると使用者にとって過酷で労働者には甘いように思えるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
たとえば、好景気で多くの役員報酬・株主配当がでたとき、同じように労働者への分配が行われたのでしょうか。大企業などに顕著にみられる内部留保は、こういったときに会社に貢献している労働者の雇用を維持するためにこそ、用いられるべきではないでしょうか。
少なくとも、使用者は、現行の労働法令が使用者による安易な解雇は許さないことを把握して労働者を雇用して、労働者の労働力を利用して利益を上げてきたのです。経済危機だからと言って安易な解雇で使い捨てが許されるのでは、あまりに虫が良い話です。
会社が労働者の解雇を選択する自由があるように、労働者も解雇に対して対等にこれを争う自由があり、そのこと自体に躊躇いを感じる必要などないのです。解雇された困窮状態から自分や家族を救うのも、不名誉を晴らすのも、最後は自分だけができることです。
あとで悔いの残らぬように、まずは自分が取り得る手段を、きちんと上記の専門家(弁護士か労働組合)にご相談することをお勧めします。
注1 いわゆる「非正規労働者」の場合、派遣か、有期労働契約か、有期契約の契約期間満了時なのか契約期間の途中での解雇なのかなどによって、法律の適用法令が複雑化します。少なくとも、「非正規労働者」だから争えないということはなく、例えば、雇用期間が定まった有期契約の期間途中の解雇であれば、正社員以上に解雇は厳しく規制されています(労働契約法17条1項)。より一層専門的な判断が必要となるので、専門家にご相談をお勧めします。
注2 整理解雇の4項目について、これが単なる判断要素であるか、要件(全て満たさないとアウト)かは学説・判例上も争いがありますが、私は労働者側に有利な4要件と表記しています。
嶋崎量
弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?−無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「裁量労働制はなぜ危険か−『働き方改革』の闇」(岩波ブックレット)、「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)、「企業の募集要項、見ていますか?−こんな記載には要注意!−」(ブラック企業対策プロジェクト)など。