東京新聞 【社説】春闘スタート 賃上げは成長の基本だ

【社説】春闘スタート 賃上げは成長の基本だ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020013002000183.html
東京新聞 2020年1月30日

 連合と経団連のトップ会談が行われ春闘が始まった。経団連は雇用制度見直しへの関心を打ち出した。だが最優先はあくまで賃上げであり雇用問題が交渉停滞の口実にならないよう注視したい。

 経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は終身雇用など日本型雇用制度を見直す姿勢を鮮明にし、春闘交渉の優先テーマとするよう提案した。国際的な競争力を高める意味で日本の雇用について議論することに異論はない。

 だが春闘で暮らしに直結する賃金問題を二の次にすることはあり得ない判断だ。雇用のあり方は労使だけでなく国民的視野で幅広く議論するテーマだ。直ちに方針を改めるよう経団連に求めたい。

 春闘では大企業ベースで過去六年連続ベアと定期昇給を合わせ2%超の賃上げが実現されてきた。経営側はこの流れを断ち切らないよう柔軟な姿勢を示すべきだ。

 というのも特に第二次安倍政権以降、大企業は政策的に優先されてきたからだ。政権発足時40%程度だった法人税の実効税率は30%程度まで下がった。

 さらに大規模金融緩和策による金利低下により円安傾向が続いている。政府・日銀が演出したともいえる円の対ドルレートの低位安定が、高い水準で推移する株価に好影響を与えたことは否定できないだろう。

 国主導の支援などにより多くの大企業の財務内容は健全化し経営は好転した。だが昨年九月公表の法人企業統計によると、企業がためている内部留保は二〇一八年度、四百六十三兆円と七年連続で過去最高を記録した。

 これは多くの大企業がもうけを労働者に還元していない実態を裏付けている。利益をどの程度従業員の人件費に充てたかを示す労働分配率も七割程度で一九七〇年代以来の低いレベルだ。

 賃上げに慎重な大企業の姿勢は中小企業はもちろん、非正規で働く労働者の待遇にも強く影響する。立場の弱い下請け企業の従業員や不安定な状況に置かれている非正規の労働者の大半は依然、政府が主張する「景気回復」を感じていないのが実情だろう。

 さらに賃上げの抑制は国内総生産(GDP)の約六割を占める個人消費の減少に直結し、企業活動全体の停滞にもつながる。負の連鎖を避けるためにも経営側はより高い視点で、労働者側はより強い危機意識を持って交渉に臨んでほしい。 

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